第16話「超重力の檸檬姫」
「さあ、始まりました。第一回『
「拙者、フォンデュでお送りいたしますぞ」
「はい、よろしくお願いします」
謎の大会が勝手に幕を開ける。戦場となった二つのボックス席を取り囲むようにギャラリーができ、有志で実況・解説をする者まで現れている。
「ルールはいたって簡単。こちらの
両陣営の前には、それぞれ唐揚げの山が鎮座している。
あの時ゴトウが注文したのは、八九三組御用達の
***
「大食い対決なのに五対一っておかしくない……?」
厨房でひたすら唐揚げを仕込んでいるカリン。何故か誰もがスルーしている部分に、一人でツッコミをいれている。
「別にいいんじゃね? 私たちがわざわざルール考えてやる義理もないしな」
「それもそうね……」
店長の言葉に納得し、カリンはこれ以上考えることを辞めた。
***
「さて、フォンデュさん? この勝負どちらに軍配が上がると思われますか?」
「やはり八九三組ではないですかな? 五人いますし」
「まあ、そうですよね」
開戦のゴングを前に、徐々に高まる観客のボルテージ。
「さて、この辺でメンバー紹介に移りましょう。まずは八九三組から。一人目、
「拙者もアニキですぞ。妹は画面から出てきませんがな」
「二人目。彼に止められたカチコミは数しれず。
「
「三人目。その鍛えられた筋肉はマグロ級。
「拙者は脂身の方が好きですぞ」
「四人目。頼れる貴重な参謀役。
「拙者の出身校はハルバード大ですぞ」
「最後の五人目。
「名誉返上のチャンスですな」
謎の選手紹介まで始まり、会場は大盛り上がりだ。選手一同も立ち上がってファンサービスするなどノリノリの様子だ。
「続いては五九十組。五対一の正々堂々とした戦いに挑むのはこの男。進撃の
「キミの唐揚げはもう食道を越えないですぞ」
対してゴトウは静かに座っている。しかしながら、不敵な笑みを崩さず、余裕の表情をたたえていた。
***
「まったく……。なんでわざわざうちでやるのよ……」
ひたすら唐揚げを仕込みながらカリンがぼやく。
「使う分全部ちゃんと注文するっていうんだから仕方ないだろ……。まあ、片方は一人だけだ。どうせすぐ終わるだろ……」
ひたすら唐揚げを揚げながら、死んだ魚のような目で答える店長。
「それもそうね……」
この戦いがあんな激しい消耗戦になることなど、この時の彼女たちにはまだ知る由もないことなのであった……。
***
「さあ、間もなく開戦の会場ですが、お約束の
「そうですな。
開戦のゴングを前にし、嵐の前の静けさを迎える戦場。するとそこへ、二つのレモンを持ったノアが近づいてきた。
「さあ、ついに現れました。我らが
「唐揚げとレモン果汁は、勇者と鍋の蓋ぐらい切っても切れない関係性ですからな」
「それだと速攻で捨てられそうですが……。さあ、レモン爆弾のお時間です」
実況のアナウンスに合わせてノアがパチンと指を鳴らすと、八九三組とゴトウの眼前にそれぞれ重力球が展開され、そこにいつもの如くレモンが投げ入れられる。
「ノアさんの必殺技、
開戦のゴングと言わんばかりに、派手に弾け飛ぶ二つのレモン。
「ぐわあぁぁぁ! 目があぁぁぁ!」
いつも通りに悶え苦しむ八九三組一同。
「ふん。効かぬわ」
対するゴトウにはあまり効いていない様子。涼しい顔で箸を手に取り、のたうち回る八九三組一同を尻目に、黙々と唐揚げを食べ始めた。
こうしてあまりにもアンフェアな大食い対決が幕を開けたのだった。
***
「掃除、大変そうですね……。あはは……」
追加用の唐揚げの盛り付けをしながらその様子を見ていたアオイは、終わった後の惨状を想像し苦笑いを浮かべていた。
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