第5話「立ち上がれプロレタリアート」
「なんか最近、忙しすぎやしないかしら……?」
ある日のラストオーダー後、疲れ果てた様子のカリンがそう切り出した。
「そうだね……。うちのお店、4人で回すにはちょっと大きいからね……」
苦笑いを浮かべるアオイ。どうやら彼女も同意見のようだ。
コルボの席数は50席ほど。中型ファミレスくらいの規模はあり、店員4名のみで回すには中々ハードだ。
「まあ仕方ないんじゃない? まさか客に来るなって言う訳いかないし……」
「そうよね……」
ノアの諦めたような呟きに、カリンも頭を抱える。
「店員の募集とかってしてないのかしら……? オープニング以来私たち以外の誰も入ってないけど……」
「ん~、どうだろう? 面接してるとことかも見たことないしねぇ……」
「さすがにずっとこのままの状態は身が持たないわ……。ちょっと店長に直談判してくるわね」
「え? あ、カリンちゃん待って~!」
突然歩き出してしまったカリンを、慌ててアオイが追いかける。
「まあうちにそんな人件費出す余裕なさそうだけどね……」
先日のゴキブリ騒ぎの残骸の一つである、焦げたカーテンを見ながら呟いたノアの言葉は、すでにカリンの耳には入っていないようだった。
***
「あ? 店員の募集をかけて欲しいだぁ?」
事務所で居眠りしていた店長は、突然現れたカリンに叩き起こされると面倒くさそうに頭をかいた。
「そうよ! 私たちだけじゃお客さんさばききれなくなってきてるし、そろそろ店員増やしてほしいんだけど!?」
「あはは……。店長さんごめんなさい」
疲労から気が立っていそうなカリンと、その後ろで苦笑いを浮かべたアオイの両者を見比べ、店長は何かを察したようにため息をついた。
「まあな……。お前らだけじゃパフォーマンスのネタもマンネリ化してきたとこだしな……。また募集かけてみるか……」
セリフに反し、店長はあまり気乗りしない様子だ。
「また……? 面接してるとこなんか見たことないけど……?」
店長の、以前にも募集をかけていたかのような発言に少し引っかかる様子のカリン。
「しばらく止めてたからな……。まあ、あんまり期待するな? お前ら三人雇うのだってやっとのことだったんだからな……」
店長は何故か遠い目をしながら、釘を刺すようにそう言った。
***
「で、どうだったの?」
やっと戻ってきた二人に対し、ノアが尋ねる。
「それがね、聞いてよノア!? 店長に言ったら募集かけてくれるって!?」
興奮気味のカリンが、待ってましたと言わんばかりに、ノアにそう告げる。
「へー。よかったじゃん」
「でも、店長さんあまり乗り気じゃなさそうだったね? 『お前ら三人雇うのだけでもやっとだった』って遠い目だったし……?」
見るからに乗り気ではなさそうだった店長の様子を、アオイが振り返る。
「まあ魔法使いなんて絶滅危惧種だしね。募集かけてもこないだろうから、気乗りもしないんじゃない?」
ノアがそう予想を告げる。
「まあとにかく、後は店長の手腕に任せましょ? なんだかんだでいい人見つけてくれるわよ!」
カリンがそう言って強引に締めくくると、三者は三様に淡い期待を内心に秘めつつ、それぞれの帰路についたのであった。
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