魔法カフェ「コルボ」へようこそ!

ぼんげ

第1話「魔法少女たちの戦い」

「きゃあぁぁぁ!? カリンちゃん!? そっち! そっち行ったよ!」




「任せて! 私の必殺『フレイムアロー』で焼き尽くしてやるわ!」




 紅蓮のサイドテールをなびかせ、カリンと呼ばれた少女がその狙いを定める。




 彼女たちを脅かすその敵は、妖しく黒光りする羽で以て戦場を縦横無尽に飛び回る。戦況は混乱の一途に陥り、既に被害は甚大であった。




「どうしよう……!? このままじゃ全滅しちゃう……!?」




「分かってるわよ!? もう! ちょこまかとうっとうしいわね!」




 放たれた炎の矢も、なかなかその敵を捉えることはできない。敵は依然として彼女らを挑発するかのように飛び回り続ける。




 自陣からは火の手が上がり、どこかから「ガシャーン!」と何かが破壊される音も響き渡る。




 ガチャ。




 そんな中、どこかの扉が開く音と共に、待ちに待った援軍が到着した。




「重力球でアイツの動きを鈍らせる。カリン、その隙に仕留めて」




「分かったわ、ノア! お願い!」




 ノアと呼ばれたその寡黙な少女は、小さく頷くと自身の前方に禍々しい青紫の重力球を展開する。たちまち散々飛び回っていたその仇敵は、その重力に吸い寄せられ、身体の自由をにわかに奪われた。




「よくも好き勝手やってくれたわね!? くらいなさい! 『フレイムアロー』!」




 カリンの放った渾身の「フレイムアロー」がついに命中し、忌々しいその敵の肉体はみるみるうちに焼き尽くされていった。




 ***




「みんなお疲れ! でも、これどうしよう……?」




 見事敵を仕留めたカリンとノアの元に、空色のロングヘアを揺らしながら嬉しそうにアオイが駆け寄ってくる。しかし、悲惨な状況の自陣を見渡すと、すぐにその表情は曇っていった。




「割れたお皿が13枚、カップが18個……。そこのテーブルと椅子は足が折れてるし、そこのカーテンは黒焦げ状態……。おまけにスプリンクラーが稼働したせいで床をはじめ、店中水浸し……。廃棄した料理・食材は数知れず……。お客様の服などの弁償・クリーニング代、その他諸々……」




 店内を見渡し、被害状況を冷静に分析するノア。




「店長にバレたら確実に大目玉ね……。『ゴキブリくらい物理で潰せ……』って呆れられるのが目にみえてるわ……」




 カリンはこれから起こりうる事態を想像し、頭を抱える。


「だいたいノアはどこで何してたのよ……? アオイは何の役にも立たないし……」




「事務所で発注かけてる途中だったんだから仕方ないでしょ……」




「カリンちゃんがフレイムアロー外して燃やしたカーテン消火したの私だよ!?」




「結論。カリンがノーコンなのが悪い。以上。解散」




「あんな飛び回ってるの相手に当たるわけないでしょ……」




 しばらくの間、現実逃避して責任の押し付け合いをする三人。しかし、眼前に広がる惨状を前に、次第にその気力さえもなくなっていったのだった。




 ***




「一体何なんだ、この有り様は……?」




 あれから数十分後。今日も今日とて重役出勤してきた店長より、眼前の大惨事について、ごく当然の疑問を投げかけられる。




「ゴキブリが出たから私の魔法で焼こうとしたのよ。でも全然当たらなくて……」




「お客さんもみんなパニックでしたね……。まあそれはカリンちゃんがカーテン燃やしたからなんですけど」




「ちょっと、アオイ!? 余計なこと言わないで!?」




 カリンが弁明を始めると、アオイからはフォロー風の追い討ちが飛んできた。




「はぁ……。お前らな、ゴキブリくらい物理で潰せ」




 頭を掻きながらため息をつく店長。




「嫌よ!? 潰したあとどうすんのよ!?」




「知るか。ティッシュにでも包んで捨てとけ。とにかく、お前たち。今月は給料無しな」




「ちょっと、何でよ!?」




 店長からの非情宣告。当然、カリンが食い下がるが……




「当たり前だろ。何ならお前らの安月給なんか三人分集めたって、余裕で今回の修繕費その他諸々の方が高いんだからな」




「私はこの二人と違って何も壊してない」




「あ、ノアちゃんずるい!? それを言うなら私だって、カリンちゃんと違ってカーテン燃やしたりはしてません!」




「アンタたち!? ちょっと!?」




 沈黙を貫いていたノアだったが、自分だけ罪を免れようと口を開く。それに便乗してアオイもどこかずれた弁明を始めた。




「やかましい。連帯責任に決まってるだろ」




 しかし、二人の弁明は敢え無く却下となった。




「とにかく。今日中に片付けて、明日は営業できるようにしとけよ」




 それだけ言い残すと、店長は事務所へと消えてしまった。




「アンタたちに言いたいことはいろいろあるけれど……。今はとりあえずこれを片付けましょうか……」




「そうだね……」




 カリンとアオイがトボトボと掃除道具を取りに向かう。




「……本当に何も壊してないのに」




 ノアは不満そうに一言ボソっと呟きながらも、二人に続いて店の後始末を始めたのだった。

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