22話
火山地帯にはゴーレムを作るのに適した石や鉱石が豊富に散らばっていた。葵はまず、大きな岩を見つけて、それを基盤にすることにした。
「セリナちゃん、この岩を使おう。しっかりとした土台の方がいいでしょ?」
葵の提案にセリナも同意して大きな岩を運んだ。
「うん、これなら耐久性がありそうですね。でも、小さい石も必要そうですね」
セリナは手頃な岩を見つけると、華麗にターンをしながら回し蹴りを放った。岩は粉々に粉砕されて手頃な小石に変わる。
〈うん、強すぎ〉
〈もうこれくらいなら驚かないかな?〉
〈岩が小石になるとかえぐいな〉
〈可愛い見た目で強いとか反則でしょ?〉
〈細い足なのにどうして強いの?〉
〈もう全部勇者だからで説明つくな(笑〉
手元には様々な形やサイズの石が集まった。2人は慎重に石を組み合わせてゴーレムを作り上げていく。
「葵さん、頭部はどうしますか?」
「う~ん、これとかどうかな? 大きさもちょうどいいし、見た目も迫力もあってよくない?」
「いいですね!」
制限時間が迫る中、2人は一心不乱に作業を続けた。徐々にゴーレムの全体像が見えてきて、完成まであと少しのところまできた。
「あと5分だよ!」
葵が時計を確認しながら叫ぶ。
「急がなくちゃ!」
セリナも大急ぎで最後の仕上げに取り掛かった。
「「完成!!」」
2人は息を合わせて最終的な調整を行い、ゴーレムを完成させた。立派な体格に頑丈な腕と足、そして迫力のある頭部を持ったゴーレムが立ち上がった。
葵とセリナはゴーレムの出来栄えに満足して微笑んだ。視聴者たちもその見事な作品に驚きと歓声を上げた。
〈すげ!!〉
〈これは男子心をくすぐるな〉
〈カッケーな!〉
〈2人のチームワーク完璧だね〉
〈息ぴったりの作業だったよ!〉
〈早く戦ってる所を見たい!〉
〈やばい、カッコ良すぎる!〉
〈いいな~ 俺も作ってみたいな~〉
葵とセリナは互いにハイタッチをして戦いに備えた。一方魔王は黒曜石を使ったゴーレムを作っていた。さらに何か謎の呪文を教え込んでいる。
「よし、我も準備完了だ」
互いに向き合う二体のゴーレム。葵とセリナのゴーレムは溶岩石の輝きを放つ岩の巨体。一方魔王のゴーレムは黒曜石でできており、不気味な黒い輝きを放っていた。
「さぁ、始めるぞ!」
いよいよ戦いの火蓋が落とされた。先に動いたのは魔王のゴーレムだった。巨大な黒曜石の拳が轟音と共に葵たちのゴーレムに向かって振り下ろされた。
「まずは防御を固めて!」
葵は指示を出すと、彼女たちのゴーレムは両腕を構えて防御の態勢に入った。そして魔王の先制攻撃をしっかりと受け止めて踏ん張った。
「今度は反撃です! 右拳を振り下ろして!」
セリナが叫ぶと、彼女たちのゴーレムは力強く拳を振り下ろして黒曜石のゴーレムの肩を打ち砕いた。でも魔王のゴーレムは止まらなかった。
「左フックだ!」
魔王が命令すると黒曜石のゴーレムは素早く左拳を振り回し、葵たちのゴーレムの顔面に打ち込んだ。その衝撃で後ろに大きく後退する。
「大丈夫。まだいける! 連続パンチよ!」
彼女たちのゴーレムは再び前進し、左右の拳を連続で繰り出した。黒曜石の表面がひび割れて、破片が飛び散る。
「やった、効いていますよ!」
「もう一押しだよ! 全力で攻撃して!」
セリナは喜びの声を上げて、葵も彼女と同じように喜んでガッツポーズをする。
「上段からの一撃を繰り出して!」
セリナが叫ぶと、彼女たちのゴーレムは力強く拳を振り下ろした。がつんっと鈍い音が洞窟に響き、魔王のゴーレムがその場に倒れ込む。
「今だ、止めを刺して!」
葵が指示を出すとゴーレムは最大級の力をこめて右ストレートを放った。でも直撃する前に、魔王のゴーレムが掠れた声で呪文を唱えた。
「アクア……ストーム……」
黒曜石でできた右腕から魔法陣が浮かび上がり、そこから大量の水が放出した。ゴーレムは土と岩からできている。濡れてしまうと致命傷を負ってしまう。
「まずい逃げて!」
葵がすかさず指示を出したが、大量の水が彼女たちのゴーレムの心臓を貫いた。
「ハッハッハッ、見たか今の一撃を!」
魔王はいかにも魔王らしい豪快な笑みを浮かべた。先ほどゴーレムに何かを教えている様子だったけど、どうやら水の魔法を仕込んでいたらしい。
「形勢逆転だな。これで終わりだ!」
今度は魔王のゴーレムが右腕を振り下ろしてきた。本人はもちろん、視聴者も勝負有りだと思ったが……
「今よ、立ち上がって!」
葵の命令を受けて、彼女たちのゴーレムは起き上がり、華麗なカウンターを決めた。魔王のゴーレムは今度こそ力尽きて崩れ落ちた。
「なっ、なぜだ、確かに心臓を貫いたはずなのに!」
魔王は信じられない様子でガクッと膝をつく。
「どういうことだ? なぜ最後動けたんだ?」
ゴーレムの中心部は水でふやけていたが、心臓部分は真っ赤に染まった岩で守られていた。そう、最初に葵とセリナが戦ったマグマゴーレムの岩を仕込んでいたのだ。
「めちゃくちゃ暑いから、焼石に水だよ!」
〈まじかよ、そんな物を仕込んでたのかよ⁉︎〉
〈マグマゴーレムの岩すげー!〉
〈なんか昔の映画とかにありそうな仕掛けだな(笑〉
〈すげー、大迫力だった!〉
〈なんかロボットバトルでも見ていた気分だ〉
【2000円】〈いい戦いだったよ!〉
【400円】〈俺もゴーレムを作りたいな~〉
葵は満足げにコメント欄を眺めながらスマホをポケットにしまった。皆の反応も上々だ。葵は魔王の方を振り返って声をかけた。
「それで、次はどうするの? これで終わりじゃないでしょ?」
「もちろんだ。ついて来い!」
魔王に導かれて葵たちは後をついて行った。入り組んだ道を進み洞窟を抜けると、外の暑さが一気に襲いかかってきた。溶岩が地表に露出して、マグマが川のように流れている。
「ねえ、一体何をするつもりなの?」
葵は不安そうに声を震わせながら尋ねると、魔王はニヤリと笑った。
「安心しろ、今日はお前たちに特別な体験をさせてやる」
彼の笑みはどこか楽しげな悪戯心が感じられた。
「特別な体験?」
セリナは警戒したまま眉を顰める。すると魔王は足元に闇を出現させて、鉄板や調理器具を取り出した。さらにテーブルや椅子まで出てきた。
「さぁ、今からここに腐るほどある溶岩石を使ってバーベキューをするぞ! 次の勝負はより美味しそうに肉を焼けた者の勝利とする!」
「えっ、バーベキュー?」
「こんな場所でするのですか?」
葵は予想外の魔王の提案に目を丸くして驚いた。セリナも信じられない様子で驚き、溶岩の流れを指差した。
「そうだ、溶岩の熱を利用してバーベキューをする。面白そうだろ?」
〈えっ、何それ楽しそう!〉
〈魔王様って意外とお茶目だね〉
〈溶岩石でバーベキューとかスケールがでかいな!〉
〈さすが魔王様だ!〉
〈絶対美味しいやつだよ!〉
〈いいな~ 混ざりたいな~〉
〈てゆうか道具を出し入れできるのいいな〉
「どちらがうまい肉を焼けたか? その判定はこいつらにやってもらう」
魔王がまた指をならすと、背後の影からスライムが現れた。しかも今回のスライムはコックさんが着るような白いエプロンと無駄に長い帽子を被っている。
(かっ、可愛い……これ、一体持って帰れないかな?)
葵がジィーッと見つめていると、スライムは恥ずかしそうにプルプルの体を震わせた。
「さぁ、始めるぞ!」
魔王の開始の合図と共に、葵とセリナは食材を選びに向かった。
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