第3章 館のダンジョン
15話
「ねえ、セリナちゃん、これ見て!」
翌朝、葵は朝から興奮気味な様子でセリナを叩き起こした。まだ寝ぼけているのかセリナはとろ~んとした目をこすりながら葵を見つめる。
「ふぁぁ……おはようございます……何かあったのですか?」
「ほら、これ、銀の槍だよ!」
葵は嬉しそうに目を輝かせながら銀色の槍を握っていた。槍の表面は繊細な彫刻が装飾され、特別な光沢を放っている。先端には10万人突破を記念する印が刻まれていた。
「登録者10万人達成でもらえる特別な槍なんだよ!」
「10万人⁉︎ すごいですね! おめでとうございます葵さん!」
セリナは槍を手に取り、慎重にその重さを感じた。確かに重量感はあるがバランスが取れている。
「ありがとう、セリナちゃん。本当に嬉しいよ! これもセリナちゃんのおかげだよ」
葵は感謝の気持ちで胸がいっぱいだった。思えば、始めた時は全く見られなくて、バイトをしながらどうにか生活費を稼いでいた。何度も諦めかけた時もあったけど、それでも必死にやり続けた。
「本当に良かった……」
これまでの苦労が報われた気がして、自然と涙が溢れる。セリナも嬉しそうに拍手を送り、葵を抱きしめた。
「葵さんの努力が報われて私も嬉しいです。おめでとうとざいます」
「うん、ありがとう。セリナちゃんのおかげだよ」
「いいえ、私はただお手伝いを少ししただけです。葵さんの努力がなければこれほど多くの人には見られません。自分を誇りに思っていいんですよ」
「うん、そうだね! 次は100万人を目指して頑張るね!」
葵は涙を拭いてセリナから離れると、決意を胸にして力強い笑みを浮かべた。
「それにしても美しい槍ですね。飾っておくだけなのは、もったいないですね」
「だよね……実は前からやってみたいことがあるんだ」
葵は慎重に槍をテーブルの上におくと、部屋の奥から魔法石を持って来た。
「何をするのですか?」
「魔石を使って強化しようと思うの。それで新しい相棒にできたらな~ と思って」
「いいアイデアですね! では、私にも手伝わせてください」
セリナは槍を包み込むように優しく両手を広げると、光のオーラを注ぎ込んだ。葵は魔石を軽く砕いて槍に振りかけていく。銀の槍は眩い輝きを放ち、部屋全体を明るく照らした。
「すごい……」
葵は息を呑んで槍を見つめる。セリナは集中を切らさずに、さらに光のオーラを注ぎ込んだ。銀の槍は輝きを増して純粋な力を感じさせた。
「あと少しだけ……葵さん、魔石をもっと振りかけてくさい!」
「うん、わかった!」
葵は残りの魔石も細かく砕き、上から振りかけた。魔石の粉が槍に吸い込まれて消えていき、その度に眩い光が増していく。
「これで……完成!」
強化された銀の槍は以前とは全く異なる姿をしていた。刃の部分はさらに鋭く尖くなり、柄には不思議な幾何学模様が浮かび上がっていた。手に取ると、以前よりも軽く、そして力強い感触を与えてくれた。
「見て、セリナちゃん! 成功だよ!」
「はい! 本当に美しいですね……」
2人は強化された槍を見つめながら、新たな冒険への期待と希望で胸を膨らませた。
「あと、魔王からDMが届いて、今日は町外れの館でコラボ配信のお誘いを受けたの。ちょうどこの銀の槍を試す機会だし行ってみない?」
「はい、いいですよ。すぐに準備しますね」
葵とセリナは手短に朝食を済ませて身支度を整えると、機材と新しい相棒を担いで車に乗り込んだ。
* * *
「皆さんこんにちは、葵です」
「セリナです」
葵はドローンに向かって挨拶をすると、視聴者に手を振った。隣にいるセリナも一義にお辞儀をする。
日中の日差しが街を照らす中、葵とセリナは廃墟と化した館の前に立っていた。古びた木製の扉はかすかに軋み、壁も赤く錆びている。
ちょっとしたホテルくらいの大きさで、昔は立派な建物だったと思うけど、長年の劣化によりその面影はどこにもない。
〈一コメ、なんかいかにもお化けが出てきそうだな〉
〈今回はホラー展開ですか?〉
〈まじか~ ホラーものは苦手なんだよな~〉
〈2人とも頑張って~!〉
〈今日も配信楽しみに待ってました!〉
〈お化けもびっくりするほどの活躍に期待!〉
〈どんな恐怖が待っているのか楽しみ!〉
「あの……ここであっているのですか?」
セリナは不気味な建物に少々怯えた声で葵に尋ねた。葵はスマホを眺めながら頷く。その画面には魔王からのDMが表示されていた。
「魔王からは『この館に来い!』って書いてあるよ。一体何を企んでいるのかな?」
「よくわかりませんね」
館の内部は薄暗く、廊下には蜘蛛の巣が張り巡らされている。床はと頃どころ腐っており、足元に注意を払いながら進む必要があった。
「何か潜んでいそうだね。ゾンビとかお化けがいたりして⁉︎」
葵が周辺を見ながらそう言うと、隣にいたセリナがビクッと体を震わせて悲鳴をあげた。
「ひゃあ! おっ、お化け? やめて下さい!」
「あれあれ? もしかしてお化けが怖いの?」
「うぅ……はい……苦手です」
セリナはか細い声で答える。葵からすれば魔王ともやり合える力を持っているのに、ただのお化けが怖いというのは意外に感じた。でもそのギャップが可愛らしい。
「大丈夫。何かあっても逃げればいいでしょ?」
葵が玄関の扉をチラッと見るが、なぜか扉が閉まっていた。まさかと思って慌てて開けようとしたが、扉は鍵が掛かっているのか、ピクリとも動かなかった。
「あの……葵さん、どうしたのですか?」
「えっと……扉が開かないんだよね」
「えっ、開かない⁉︎ じゃあ、ここから出られないのですか⁉︎」
セリナは涙目になりながら葵に抱きついてプルプルと体を震わせる。強くて勇敢なセリナがこんなにも怯えている姿を見たのは初めてだった。
「大丈夫、私がいるからお化けなんて怖くないからね」
葵は子供をあやすように優しく囁きながら背中を撫でてあげた。強さと弱さが同居するセリナの姿が、葵には愛おしく感じられる。
〈ホラーあるある、入ってきた扉が開かない!〉
〈まぁ、お約束の展開だよね〉
〈でもセリナちゃんなら無理やり扉を開けて出られそう(笑〉
〈セリナちゃんがお化け苦手とか意外でかわいいな~〉
〈セリナちゃん、怖がりすぎて抱きついているの可愛いw〉
〈葵ちゃんは冷静で頼りになるね。セリナちゃんを守ってあげて!〉
〈セリナちゃん意外と泣き虫だな~ でもそれが可愛い〉
「さぁ、行こう!」
2人は奥へ進んでいくと、やがて大広間にたどり着いた。広間の中央には、かつては豪華だったであろうシャンデリアが床に落ちて砕け散っていた。周囲の壁には絵画が掛かっていたが、どれも破れて色褪せている。
そんな広間に、突然、魔王のドスの効いた笑い声が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます