第41話 小心者
10つき19日の正午、俺は前回書いた『スローガン』が10位以内に入っていることを願いながら、ヨムカクのページを開いた。
【みなさん、こんにちは。早速ですが、『アンソロジーを狙え』の前回のテーマ『工場』の結果を発表します。】
1位 夢月妹 夜勤は辛い
2位 緑青 信号機っぽい名前
3位 平遊子 給与計算はお任せ
4位 時三郎 工場長になりたい
5位 太田康子 おニューの作業服
6位 星井忠 楽しみな仕出し弁当
7位 ねりねりね 変わった名前
8位 スロ女 レース好き
9位 帰郷 ホラー好き
10位 九子実 またまたもじってしまい、申し訳ありません
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57位 ケンタ スローガン
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1389位 昭和のスーパースター 工場をエバと読み間違えた僕
(あれ? 前より順位が下がってる。……どうやら少し、発想が突飛すぎたようだな。それにしても、昭和のスーパースターさん、また最下位になってるけど、ほんと懲りない人だよな)
俺はそんなことを思いながら、選評に目を向けた。
【まずは10位以内に入られたみなさん、おめでとうございます。みなさんの作品は来年刊行予定の短編集に収録されますので、楽しみにしていてください。
さて、前回のテーマ『工場』に関してですが、大方の予想通り、自動車工場やパン工場等、工場を舞台としたものが多く見受けられました。その中で10位以内に入った作品は、多くの人が知らない工場の裏事情を書かれていたり、製品を作る過程を事細かく書かれていたりと、非常に読み手の興味をそそるものを書かれていました。また10位以下の中にも、良質な作品をたくさんお見受けしたので、次回は是非10位以内を目指してください。それではこの辺で、三回目となるテーマを発表します。今回のテーマはずばり『臆病』です。参加者の方は明後日の正午までに作品を公開してください。】
(臆病か。今回はあまり突飛な発想はせず、スタンダードなものを書こう)
俺は順位が下がった理由を発想が突飛すぎたことと勝手に決めつけ、早速プロットを考え始めた。
(うーん。いろいろ書き方があるけど、やはり主人公を小心者にして、そのエピソードをいくつか紹介するのが無難だろうな)
物語の大筋が決まると、俺は早速書き始めた。
【私の行きつけの喫茶店には、別種類の新聞が三紙置いてある。
そこに行くと、どれでもいいので、とりあえず一紙を手に取るのだが、時々三紙ともないことがある。
三人の客がそれぞれ一紙ずつ読んでいるのなら仕方ないが、中には一人で二紙、厚かましい客になると、一人で三紙独占している者もいる。
また、そういう奴に限って、読み終わってもなかなか返そうとせず、いつまでも手元に置いている。
そういう時は、(読み終わったら、さっさと元の場所に戻せよ)と思うのだが、口には出さない。
特に相手が強面だと、ただじっと待つしかない。
それでも相手が戻さない場合は、店員に言って、読み終わった新聞を元の場所に戻すよう促してもらう。
そして、ようやく相手が新聞を戻したとしても、すぐには取りに行かない。
なぜなら、私が店員に告げ口したと、相手に思われる危険性があるからだ。
このご時世、こんな些細なことでも、相手が逆恨みしないとは限らない。
私は五分くらい待って、相手の気が新聞から離れた頃に取りに行く。
その時も、一目散に新聞に向かうのではなく、最初雑誌を手に取り、パラパラと数ページめくった後、元の場所に戻し、その後、何気なく新聞を手に取る。
このようにすれば、相手も私が告げ口した張本人とは思わないだろう。
ある食堂で、サバ定食を注文したにも拘わらず、全然違うものを出された。
しかも値段が三百円も上で、私は食べたくないものを食べさせられたうえ、三百円も余計に払わされる羽目になった。
普通の者なら『こんなの頼んでないよ』とか言うのだろうが、元来人と争うのが苦手な私に、そんなこと言えるはずもなく、出されたものをただ黙って食べるしかなかった。
それでも、なんか納得がいかなかった私は、店員に間違いを気付かせようと、会計の時に「サバ定食美味しかったです」と、嫌味を言ってやった。
しかし、店員は(は? 何言ってんだ、こいつ)みたいな顔で見てくるだけで、私のささやかな抵抗は完全に空振りに終わった。
車を運転中、信号待ちをしていて、信号が青に変わったのに、先頭の車がなかなか発車しようとしなかった。
二番目にいた私が、クラクションで知らせようか迷っていると、私のすぐ後ろにいた車から、『ブーッ!』 と、まるで早く行けよと言わんばかりの挑戦的なクラクションが鳴った。
すると、先頭にいた車の運転手が、クラクションを鳴らしたのが私だと思ったのか「こらっ! お前、俺にケンカ売ってんのか!」と、凄んできた。
私は気が動転し、思わず「すみません。ちょっと手が当たってしまって」と、言ってしまった。
「嘘つけ! ちょっと手が当たったくらいで、あんな音がするか!」
「すみません。あの、私は全然いいんですけど、他の人が迷惑かなと思ったものですから……」
「俺は左右の確認をしてたんだよ! 信号が青に変わったからって、すぐに発進したら危ないだろ。それなのに、偉そうにクラクションなんか鳴らしやがって。お前、俺にケンカ売ってるんだろ? 相手してやるから、出てこいよ」
「いえ。本当にどうもすみませんでした」
「ちっ、ケンカする根性もないくせに、クラクションなんか鳴らしてんじゃねえよ」
言いたいことが言えてスッキリしたのか、相手は車に戻り、そのまま走り去った。
一人残された私は、後続車のけたたましいクラクションを浴びる中、大慌てで車を発進させた。】
(うん。主人公の臆病ぶりが窺えるエピソードを三つも書いたし、これはかなりいいところまでいくんじゃないか)
俺はそんなことを思いながら、タイトルを『小心者』とし、公開ボタンを押した。
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