第36話 全国高等学校簿記大会連覇なるか?

 その後八ヶ月が経過した夏、俺たち簿記部員は全国大会連覇に向け、日夜猛練習に励んでいた。


「去年優勝したからといって、いい気になるんじゃないぞ。お前らレベルの人間なんて、全国にはゴロゴロいるんだからな」


 先生はそう言うけど、俺はそんなレベルの人間がそんなにいてたまるかと、心の中で思っていた。


 そしていよいよ全国大会当日、俺たちは前日に訪れていた東京のホテルから、タクシーに乗って大会が行われる会場へと向かった。


 やがて会場の某大学に着くと、俺たちは去年と同じように開会式が行われる体育館へと急いだ。


 その後、開会式が始まると、俺たちは去年の優勝校として司会者に紹介され、一躍注目の的となった。


「あいつらが去年優勝した平成商業のメンバーか」

「なんか、あまり賢そうには見えないわね」

「部員数も少ないし、さすがに連覇は難しいだろう」


 外野からそんな声が聞こえてきたけど、俺はまったく気にならなかった。

 なぜなら、予選の点数で俺たちはダントツの成績を上げていたから。

 俺を含めた三年生四人に加え、去年は戦力にならなかった高橋と一条も、今では俺たちと遜色ないほど成長している。そんな最強のメンバーで負けるわけがない。


 やがて開会式が終わると、俺たちは競技が行われる教室へと移動した。


「それでは競技を行う前に、今一度説明をします。競技は計算部門と応用部門があり、最初は計算部門から行い、十分の休憩を挟んだ後、応用部門を行います。それでは早速、計算部門から始めます。なお、筆記用具を落とした場合は、すみやかに手を挙げて知らせてください。それでは始め!」


 試験官の号令の下、俺はすぐさま問題用紙を裏返し、仕訳問題に取り掛かった。


(去年経験しているからか、今年はあまり緊張しない。この仕訳問題も練習でやったものばかりだから、なんら焦ることもない)


 そんなことを思いながら、やがて仕訳問題をクリアすると、俺はその後の問題も楽々とこなしていった。


「やめ!」


 試験官の合図とともに、俺はボールペンを置いた。

 問題量が半端なかったので、さすがに全部の問題に目を通すことはできなかったが、それでも去年とは比べ物にならないくらい、解答用紙に書き込むことができた。


 その後十分の休憩を挟んで行われた応用部門も、ほとんどが練習でやったものと同じような問題だったため、なんら苦労することなくスラスラと解けた。


 やがて終了時刻になると、俺は清々しい気持ちで教室を出た。


「去年と一緒で計算部門は問題量が多かったけど、応用部門はそうでもなかったな」


 控室で俺がそう言うと、みんな一様にうなずいていた。


「まあ、予選の時と同じように、俺たちがぶっちぎりの一位だな」


 林が自信満々に言うと、北野が「そんなこと言って、もし優勝できなかったら恥をかくわよ」と、笑いながら苦言を呈した。


「私、今年初参加でしたけど、ほとんど緊張もせず臨めました」

「私もです。もしかしたら、先輩たちより点数が上回ってるかも」


 高橋と一条の二年生コンビが頼もしいことを言う。これが本当なら、俺たちの優勝はほぼ間違いないだろう。


 その中で平中だけがなぜか浮かない顔をしている。もしかして、出来が悪かったのだろうか?


「どうした、平中。気分でも悪いのか?」


 そのことに気付いた先生が聞くと、平中はただ首を振るだけで、理由を話そうとはしなかった。

 後で分かったことだけど、この時平中は生理痛がひどくて、競技に集中できなかったみたいだ。



「結果発表および閉会式を行いますので、体育館の方へ移動願います」


 控室のスピーカーから流れてきた声に伴い、参加者は一斉に体育館へ向かった。


 やがて参加者全員が揃うと、檀上にスタンバイしていた初老の男性がおもむろに話し始めた。


「みなさん、お疲れ様でした。今年も北は北海道から南は九州沖縄まで、全国の高校から参加されたこの大会も、ついに結果が出ました。それでは早速、発表したいと思います。第46回全国高等学校簿記大会優勝校は……」


 ここで去年同様、大会を盛り上げるためにドラムロールが流れた。

 去年も思ったけど、こんなことをするくらいなら、早く結果を言ってもらいたい。

 そんなことを考えていると、ドラムロールが鳴り終わり、男性が大声で優勝校を発表した。


「広島県立平成商業高等学校です!」


「やったー!」

「よし!」

「嬉しい!」

「信じられない!」

「嘘みたい!」

「ホッとした!」


 俺たちが口々に感想を言う中、先生は感極まったのか、涙目になっていた。


 その後、部長の北野が主催者から優勝旗を渡されると、先生は堪えきれず、ポロポロと涙をこぼしていた。


 程なくして発表された個人の部は、林が一位、俺が二位、高橋が五位、北野が八位、一条が十位で平中は圏外だった。

 正直、林に負けたのは悔しいけど、それ以上にメンバーの中で三位以内に入り優勝に貢献できたことが嬉しかった。


 やがて閉会式が終わると、俺たちはみんなが待つ広島に向かって家路を急いだ。



 





 




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