第6話 エッセイで読者を引き込もうとする賢太
『今回もめちゃめちゃ面白かったです!』
『竜也のあまりのダメっぷりに笑ってしまいました』
『なんで竜也がこんなにモテるのか不思議で仕方ありません』
『リアルに、竜也みたいな人いそう』
『美和と優紀が可愛すぎます』
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(うん。今回のエピソードも反応がいいな)
日曜の昼下がり、昨日の夜公開したエピソードに寄せられたコメントを自宅のパソコンで見ながら、思わず頬が緩む。
【三角関係の果てに】が、PVやブックマークを順調に伸ばしていることに満足しながら、なおもコメントを見ていると、頭の中にある考えが浮かんだ。
(もしかすると、俺の人となりを読者に知ってもらえば、PVやブックマークがもっと増えるかもしれない。よし! そうと決まれば、早速エッセイを書こう)
俺は【三角関係の果てに】の執筆をいったん中断し、自らの半生を書き始めた。
幼稚園から始まって、小学校、中学、高校と成長していくに連れ、エピソードもどんどん増えていき、あっという間に十話分書き上げた。
俺はその中から一話目だけを公開し、【三角関係の果てに】の執筆に戻った。
やがて夕方になると、俺は家族と夕食をとり、その後夜までずっとゲームをして過ごした。
(そういえば、さっきのエッセイに対する反応はどうなったかな)
ふと気になって、パソコンを立ち上げると、俺の書いたエッセイ【俺の半生記】に、たくさんのコメントが寄せられていた。
『ケンタさんて、幼稚園の頃はやんちゃだったんですね』
『まさか幼稚園児が先生のスカートをめくるなんて、想像もしてなかったです』
『幼稚園児なのに先生に告白するなんて、ませてますね(笑)』
『みんなと部屋の中でお遊戯をするのが嫌で、一人で外で遊んでいたというエピソードが面白かったです』
『友達にボスと呼ばせていたことがウケました』
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(公開してまだそんなに時間が経っていないのに、もうこんなにコメントが来てるとは……ていうか、【三角関係の果てに】より反応がいいんだけど)
俺は複雑な気持ちで、コメント欄に目を向けていた。
ちなみに、ケンタは俺のユーザー名で、名前を考えるのが面倒だったから、敢えて自分の名前にした。
その後二ヶ月が経過し、俺たち二年生は二級、一年生の二人は三級の検定試験を受けたんだけど……。
結果から言うと、俺たち二年生は全員合格。で、一年生二人のうち、一条は合格したんだけど、高橋がまさかの不合格。
本人はもとより、他の誰もが彼女の合格を疑っていなかっただけに、それを知った時には、皆一様に驚きの表情を浮かべていた。
泣きじゃくる高橋に誰も声を掛けられないでいると、先生が不意に彼女の前に立った。
「おい高橋、お前いつまでそうしてるつもりだ? お前がそんな顔してるせいで、みんなに気を遣わせてるんだぞ。そんなことも分からないのか?」
てっきり慰めの言葉を掛けてあげるものとばかり思っていた俺は、その辛辣な言葉に面を食らった。
「予選まであと一ヶ月しかない。お前一人に時間を割いてる場合じゃないんだよ」
先生はそう言うと、簿記室の隣にある準備室に入っていった。
途端、みんなが騒ぎ始める。
「今の、ちょっと酷くない?」
「あんな言い草はないよね」
「あれじゃ、高橋が可哀想だよな」
「私もそう思います」
口々に不平を言う中、高橋が泣き腫らした目で俺たちをじっと見てきた。
「先生を悪く言うのはやめてください。先生は何も間違ったことなんか言ってませんから」
「そうかもしれないけど、こういう時はもっと優しい言葉を掛けるのが普通だろ」
「林君の言う通りよ。思ったことをただ口にすればいいってものじゃないんだから」
「教師なら、それなりの配慮を見せるべきよ」
「私もそう思います」
「先生は私を奮い立たせようとして、わざとあんな言い方をしたんです。何も優しい言葉を掛けるのだけが教師の役割じゃないと思います」
「けど……」
林が言い返そうとしたのを制して、俺はみんなに投げかけた。
「まあみんなの気持ちは分かるけど、高橋がそう言ってるんだから、この件はもういいんじゃないか?」
すると、二年生の三人が納得のいかないような顔をしている中、一条が「私もそう思います!」と大きな声で同意した。ていうか、こいつはさっきから、同じことばかり言っている。
「斎藤先輩の言う通り、この件はもう忘れましょうよ。さっき先生が言ったように、予選まであと一ヶ月しかないんだし」
俺は一条の変わり身の早さに呆れながら、彼女の言葉をリピートする。
「泣いても笑っても、予選まであと一ヶ月しかない。和田先生を見返すためにも、この一ヶ月死に物狂いで頑張ろうぜ!」
声を張り上げたせいか、隣の準備室にいた岩田先生が鬼のような形相で入室してきた。
「お前ら、いつまで無駄話してるんだ! さっさと練習しろ!」
その声を聞いて、みんなはすぐさま自分の席に着き、練習を始めた。
俺もみんなと同じ行動をとりながら、もう少し声を抑えていれば締まっていたのにと後悔していた。
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