ワルキューレ ✖︎ レーラー

大猩猩和

第一章 アリストス教育学校失踪事件編

第1話 プロローグ

 昔、俺は学校の先生に憧れていた。


 誰かを教え、導くそんな大人になりたいと思っていた。


 憧れの人に少しでも近づきたいとも考えていた。


 だが、その願いは叶えられなかった。


 全てが終わった地で彼は意味もなく歩き続ける。


 どれだけ歩こうとも、どれだけ探そうとも何も見つかるはずもないのに。


 ここには確か、学校があったはずだ。


 昔、教育実習で訪れたことのある学校へ向かう。


 しかし、そこには瓦礫の山があるだけで何も残っていない。


 どこを見ても瓦礫しかなく、人の姿なども一切見えない。


 この惨状ならば、生きている者は彼以外に存在しないだろう。


 それなのに、彼はどうしても諦められずに地平線まで続く瓦礫の楽園を徘徊する。


 それでもいつかは限界が訪れてしまう。


 彼はその場に座り込むと、灰色の雲で覆われた空を見上げながら思い返す。


 雲からは黒色の雨が降り注ぎ、大地を殺していく。


 ああ、この世界ももう終わりだな。


 彼は世界の惨状を見て、そう思った。


 救いたい者のために戦い、全てを失った男。


 彼の努力は虚しく、世界は滅びてしまった。


 どうすれば、良かったのだろう?


 どうすれば、世界を救えた?


 どうすれば、大切なものを失わずに済んだ?


 そんな考えが頭の中でぐるぐる回り続ける。


 いくら考えても破滅を回避する方法も思いつかなかった。


 それほどまでに、この世界は詰んでいたのだ。


 彼は左手を空へかざす。


 彼の左手の薬指には綺麗な指輪が嵌められている。


 きっと、彼にとって大切なものなんだろう。


 そんな指輪を見ながら、彼は呟く。


「どうすれば、良かったんだろうな……俺はどうすれば、みんなが笑って暮らせる世界を守れたんだろう……」


 彼は指輪にそう問いかけても返事は返ってこない。


 そうして、世界で唯一の生き残りである響は絶望していると、


『君さえ良ければ、我々に力を貸してくれないだろうか?』


 いきなり脳内に誰かが直接語りかけてくる。


 ついに自分は幻聴を発症するほどに限界を迎えていたのかと思った響は適当に返事を返す。


「それはどう言ったことでだ?」


『君には我々の子供たちを正しく導く役目をやってもらいたい』


 幻聴は響にそう答える。


 まさか、幻聴から自分の頭にはなかった回答が返って来るとは思ってもいなかった響は驚きを隠せない。


 そして、幻聴が自分の妄想から生まれたものではなく、何かが本当に語りかけているのだと嫌でも理解した。


 幻聴が何者かによるテレパシーだと理解した響は真剣な表情で問う。


「それは教師・・をやれってことで良いのか?」


『明確には教師ではなく、教官であるが、教育者という面では同じだろう。君にはヴァルハラで教官として、我々の子供たち、ワルキューレの雛たちを導いて欲しいのだ』


 幻聴からの答えに響は少し黙り込む。


 かつては、響も教師を目指して頑張っていた身だ。


 教師ではないものの、子供たちを導く仕事はやりたいというのが本音だ。


 しかし、彼からの提案を受ければ、自分は聞いたこともない土地に行くことになる。


 そのように悩んでいた響であったが、


「分かった。その提案にのろう」


 予想よりも早く、元朝からの提案を受けた。


 彼はもう故郷も滅びれば、大切なものも全て失った。


 響にはもうこの世界に未練など何もなかった。


 だから、彼の腰は凄く軽かったのだ。


 響が提案を受けたのを確認すると、


『それでは、我が子供たちのことを頼むぞ』


 幻聴は最後にそう言い残すと、響は強い眠気に襲われ、そのまま眠りについてしまう。


 そして、彼が次に目覚めた時にはこことは全く別の世界に来ていたのだった。

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