第2話 ヴァルハラ

 響が目を覚ますと、そこはどこかの部屋のような場所に来ていた。


 先ほどまでは瓦礫の山が並ぶ荒廃した世界にいたはずだ。


 それなのに、目が覚めた時には見知らぬ場所に飛ばされていた。


 そのことに少し困惑しながらも幻聴とのやり取りを思い出し、ここが彼の言っていた世界ではないかと推測する。


 確か名前はヴァルハラと言っていた気がする。


 そうして、響が現在の状況を理解しようと思考を巡らせていると、部屋の扉が開く。


 扉の方へ視線を向けると、部屋の中へ誰かが入ってくる。


 その者は女性であり、身長は170センチメートルといったところか。


 髪は少し短く、美しい銀髪をしている。


 響も白髪と目立つ色をしているが、彼女もそれに劣らないほど目立っている。


 響が中へ入ってきた女性へ視線を向けると、


『初めまして、響教官。私はこの世界の中央総括組織『ヴァルレイア』の総長をしています『ブリュンヒルデ』です」


 銀髪の女性、ブリュンヒルデは己の自己紹介を響に行う。


 その際、彼女は彼の名前を呼んでいたのだが、きっとあの幻聴の主人が事前に伝えていたのだろうと思い、気にしないでおく。


 そうして、ブリュンヒルデは自己紹介を終わらせた後、


「早速ですが、響教官にはヴァルハラの現状についてお話ししなければなりません」


 ブリュンヒルデは真剣な表情のまま話を続ける。


 ここは彼女の話をそのまま聞くのが正解なんだろう。


 しかし、響はどうしても聞かなければならないことがあるため、彼女の話を遮り、質問する。


「あの…申し訳ないんだけど、この世界について教えてもらえたりしないかな?」


 それは響が連れて来られた世界はどのようなところなのかというものだった。


 響が質問してみると、ブリュンヒルデはとても驚いた表情を浮かべる。


 ブリュンヒルデの表情を見た響はもしかして、自分が常識ないだけなのかと一瞬焦る。


 そんな彼にブリュンヒルデは驚いた表情のまま質問する。


「事前に何も教えられていないのですか?」


「うん、この場所がヴァルハラ?だっけ?って言うことしか聞かされていないかな。後は教官という肩書きになっていることは聞かされているよ」


「あの方たちは本当に何をしているんだか…」


 ブリュンヒルデは、そう小さな声で誰かの愚痴をこぼす。


 どうやら、彼女も響は事前にこの世界について教えられているものだと思っていたようだ。


 予想外の事態にブリュンヒルデはため息をつきつつ、響との話を続ける。


「そちらの事情はよく分かりました。それでは、私が代わりにこのヴァルハラについてお話し致します」


 そうして、響はブリュンヒルデからヴァルハラについて教えてもらうことになった。


 このヴァルハラという場所は神々によって作られた隔絶された世界らしい。


 そして、このヴァルハラでは神々の使徒たるワルキューレを育成する場所とのことだ。


 このヴァルハラは神ごとに管轄する領域が存在しており、神ごとにワルキューレを育てる学校、『ワルキューレ教育学校』の特色も変わってくるそうだ。


 そのため、それぞれのワルキューレ教育学校ごとに自治区が存在しており、いわば一つ一つが国のような存在とのことである。


 一応、すべての自治区共通の法も存在しており、ヴァルハラはアメリカのような場所である。


 そして、各学校が自治区を持っているため、ヴァルハラの全土はとても大きいようだ。


 ヴァルハラについての説明がある程度終わったところで、ブリュンヒルデから質問を投げかけられる。


「響教官は私たちワルキューレについてどの程度知っているのですか?」


「うーん、神話に出て来て戦士の魂を連れて行くくらいの知識しかないね」


「それはあくまでも神話なので、実際のワルキューレはそのようなことはしません。魂の循環は私たちのような存在では干渉すら許されませんからね」


 そう話しているうちに二人は職員たちの休憩所のような場所にたどり着く。


 この休憩所には机と椅子がセットされており、この場でゆったりとデスクワークや軽いミーティングなども出来るだろう。


 今は誰も使っていないようであるが。


 そうして、ブリュンヒルデはこの休憩所をそのまま後にしようとしたが、響にワルキューレのことを知ってもらうためのレクリエーションを思いつく。


 名案を思いついたブリュンヒルデは足を一旦止めると、


「ワルキューレについて知ってもらうためにも少し軽いレクリエーションをしませんか?」


 響に少し食い気味でそう質問する。


 それに対し、響はブリュンヒルデの圧で一歩後ろへ下がりながら、


「あ、ああ。私はしても問題ないよ?」


 彼女からの提案を受けることにする。


 そうして、軽いレクリエーションをすることになった響はいったい今から何をするのだろうかと戦々恐々としていると、ブリュンヒルデが口を開く。


「それでは一回、私と腕相撲をしましょう」


 そのレクリエーションは腕相撲であった。

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