六年間の執筆活動で得たものと失ったもの

最上優矢

六年間の執筆活動で得たものと失ったもの

 今年も暑い夏がやってきた。

 これほど暑い夏は、六年前の愛知県以来、といってもいいだろう。


 六年前の夏。


 愛知県では、四十度越えの日が続いていた。

 そんな猛暑続きの夏の日に、私はある一人の施設スタッフに発破をかけられ、初めて小説の執筆に取り掛かった。


 今でも、あのときのことを思い出す。

 一年以内に小説家になることを条件に、私は施設から自宅に一度戻る、と提案したことを。


 結局、私の提案は却下されたが、私は小説を施設のノートパソコンで書くことを許された。


 そのときに数日で書いた一万字ほどのホラー短編小説。

 あれこそが……あの夏の日に書いた駄作こそが、私の執筆活動の始まりだ。


 その後、施設を問題行動で退所した私は、恩人のスタッフの彼の言葉を信じ、父方の祖父母の家で小説を書き続けた。

 小説というより、小説もどきの性癖丸出しの駄作ではあったが、着実に執筆のレベルが上がっていくことに気づいていた。


 ちなみに言うと、当時の私は呪われていた。

 どう呪われていたかは書かないが、小説を書き始めて間もない頃の者なら、誰しも経験したことのある呪いではないかと、私は思う。


「涙の流星群」を書き始めた頃、私は祖母の家(祖父は五年前の夏に亡くなった)から両親と兄が住む神奈川県の家に戻った。


「涙の流星群」の確かな手応えを感じた私は、一心不乱に書いた。


 このとき、私は精神病院に入院したが、それでも退院してからすぐに執筆を再開させた。

 正直、特大の呪いにかかっていた私は「涙の流星群」が入賞するのだと、心の底から信じていた。


 もちろん、結果は惨敗だ。


 半年ほど、私は自業自得ともいえるスランプらしきものに陥った。

 そんなとき、私は「卒業、さよなら青春」を書き始め、軌道に乗ったので、無事書き終えた。


 しかし、これも結果は惨敗。


 とうとう私は自分の書く小説を信じられなくなり、放置ゲームに現実逃避し、かなりの金額を費やした。


 とうとう末期になると、私は半年のあいだで精神病院に三度入院することになる。


 最後にした精神病院の入院は、二十五歳にして十度目の入院であり、このときの入院の退院日は、今年の八月一日だ。

 この九年間のあいだ、開放病棟での入院一回、閉鎖病棟での入院九回。


 直近の入院のとき、私は生きることに疲れ、幸いにもそれは未遂で終わったが、小説を書くことを諦めた私には生きる意味や生きる希望もなく、生きる屍の苦痛を一か月以上ものあいだ、とことん味わった。


 しかし。

 それでも私は再び小説を書いている。

 結局のところ、小説こそが私の生きる意味であり、生きる希望なのだ。


 この六年間の執筆で、得たものはある。


 私の執筆を応援し、書けば必ず最初に読んでくれる両親との絆。

 急いで小説家になろうとすることは毒であり、何事も長い目で見ることの重要性。

 現実逃避は程々にしないと、かえって現実が悪くなるという教訓。

 プロットの必要性と私なりに合ったプロットの活用方法。

 青春小説を書くことしかできなくても、それはそれで強みだということ。

 他人が私の書く小説を認めずに可能性を否定しても、私自身が認めて可能性を肯定することの大切さ。

 小説から逃げてもいい、書くのをやめてもいいという思考を常に持ち、いざとなれば小説から全力で逃げることをして、再び小説を書く準備を整えれば、結果オーライなのだという思考。


 ……などなど。


 逆に、この六年間の執筆で失ったものもある。


 ただでさえ不仲だった兄との関係。現在、兄は別居中。

 一時期は復縁するかと思われた複数の親族との関係。現在、絶縁中。


 ……などなど。失ったものは少ないと思うかもしれないが、あまり思い出したくないことは思い出さないに限る。


 だが、失って良かったものもある。


 必要以上の負のプライドや嫉妬。

 過剰なこだわりや自信。

 

 ……などだろうか?


 何はともあれ、何度も小説を書くことを諦め、一度は生きることを諦めた私でも、執筆という生きる意味や生きる希望を取り戻し、また小説を書いている。


 もう小説家になることを急がないし、小説が書けなくなることも恐れない。

 なぜなら、結局私は小説を書くし、最後にはこれまでの努力が報われるからだ。

 少なくとも、私は……努力をした人間が報われると、心の底から信じている。


 夢は叶えるためにある。

 叶えられない夢なんて、あるはずがない。


 そう名言らしきものを書いたところで、突発的に書いたエッセイは終わりを迎えるのであった……。

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