第10話
今日から文化祭までの美術の授業では、2人1組で絵を描くことをメインにやっていくらしい。美術を専攻で取った人の作品を廊下に飾るらしい。文化祭で飾るなら人物画よりも、個性を出した感じの絵の方がいいと思うのは俺だけだろうか。正直絵の技術を上げたいだけの俺からしたらなんでもいいんだけど。
俺の相手は、席がたまたま隣だった上谷さんだ。美術部で、美術の絵も取るあたり絵を描くことが得意だったり、好きだったりするんだと思う。俺も同じだけど、明らかな差があるような気がする。
「俺絵得意じゃないけど、できるだけ上谷さんのこと魅力的に描けるように頑張るから安心してほしい!!」
「そんなの気にしなくていいよ。私も田中君カッコよく描けるように頑張る」
上手く描けるようにもそうだけど、笑われて返されたから絶対気を遣われた。悲しい。それって俺に画力がないって言ってるのも同じじゃん!
(晃成の片想い相手だし、上谷さんのことちゃんと可愛く描かないと…!)
油絵の独特な匂いと、筆がキャンバスを撫でる音だけが響くこの感じが好きだから美術の授業とかが好きなんだと思う。一応お互いの人物画を描くっていう体だから顔を凝視してるけど、キモいって思われないかなって急に心配になった。
(俺も上谷さんからガン見されてるからお互い様か。また晃成にうらやましい!!って言われるんだろうなぁ)
晃成の言うとおり、上谷さんの魅力は姿勢が良くてスラっとしていて首も長かったりするとこだと思う。うなじフェチからしたら良いのかもしれない。俺はフェチではないからわからないけど。
だから首が長く見える斜めから見た上谷さんの絵を描こうと思っている。本人が万が一そこが自分のコンプレックスだったらごめんって思うけど多分大丈夫だろう。油絵は重ねてどんどん塗って行くから割と最初は適当だ。
授業も半ばになって、周りの皆が話し始める。だんだんとザワザワしてくるのは集中力が切れるからだと思う。先生も注意しないし、毎度のことなんだと思う。
「授業だからーって思って田中君ガン見してちゃったんだけど、なんだか恥ずかしいね」
「そう?俺は授業って思うと意外といけるタイプかも」
確かに言われたら恥ずかしい思いがやっと芽生えてきたかもしれない。でも恥ずかしいとかは特に無かったな。とにかく、うまく描かなきゃっていう思いしかなかった。けど好きな子の絵を描かなきゃいけなかくて、ガン見しろって言われたら恥ずかしかったかもしれない。
「だって、田中君ってけっこう塩顔でカッコいい感じだし」
塩顔ってよく聞くけどわからんやつだ。醤油顔の反対だよな、わからんけど。
「え、俺の顔は中の下ってレベルで生きてるよ」
いつも隣に晃成がいて、霞んでいる身からするとそう思う。よくあんなイケメンと友達になれたな、俺。本当に今でもびっくりする。
「そんなことないよ!結構私田中君のこと割りと結構好きだよ」
(ん?なんか今間接的に好きとか言われた?)
「今私の絵描いてる時の、真剣な眼差しとかめっちゃカッコ良かった」
え。俺、そんな目で見てない。やめて、おっさん困っちゃう。
「あ、ありがとう」
もうそんなことしか返せなかった。俺、どうしたらいいんだろう。あんなにいい友達失いたくない。
「あ、そうだ。このあと一緒にお昼食べない?いつも一緒に食べてる高橋君今日部活でしょ?」
なんで知ってる。確かに今日昼練って晃成言ってたけど!!もしかしていっつも盗み聞きされてる?女子高生の情報網怖い。
「ね?いっしょに食べよ。私田中君ともっとお話ししたい」
「俺でよかったら…全然いいよ」
授業で絵はある程度進み、進捗的にはまあまあだ。問題は昼だ。今日はピロティで食べるらしい。うちの学校は結構施設が充実していて、びっくりする学校生活を毎日送っている。
「俺なんかとお昼一緒で良かったの?他に友達とかいるのに…」
「実はね、私田中君に言いたいことがあってお昼に誘ったの」
嫌な予感しかしない。時間よ止まれ!って願うけどそうはいかないし、上谷さんは一呼吸置いて話し始めた。
「私…田中君のことが好きで付き合ってほしいの。もし他に好きな子がいるとかだったら、セフレでもなんでもいいの!田中君に私の身体を変えてほしいって思っちゃったの。はしたないって思うかもしれないけど、ほんとなの」
「…ごめん。俺上谷さんの思いには応えられない。それにそんなに簡単に差し出しちゃダメだよ」
「…そう、応えられないか。でも私、諦めないから!!!」
そう言って上谷さんはお昼もそこそこにどっかへ行ってしまった。泣かせちゃったかもしれないけど、俺は好きな子もいるし、付き合う前にセフレ状態からとかそんなふしだらなことしたくない。
(上谷さん諦めないって言ってたけど、諦めて晃成と付き合って平和に終わってほしいなぁ)
ちなみにこの日のお昼ご飯の味は、全く覚えてないことを追記しておく。
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