不良娘、やれるもんなら異世界救ってみろ

八柳 心傍

第1話 プロローグ

――雨の中で永遠に閉じこもっていたい。


――この夜がずっと続いたら良いのに。


――人は美しいまま終わるべきだ。


 この世は誰かの想像や欲望をテーマに創り出されている。


 それが常識で、実際にどこの国も不思議な特徴を持っている。世界は誰かの想いをもとに創作され続ける。では、それを創作しているのは誰か。


 原初の精霊。


 そう呼ばれる者たちが、世界の最果てにいる。


 彼らはにする。魔法の歌ではないという点が重要だ。一つの喉から数百人の歌声を発し、音楽に殉ずる演奏家たちがようやくの思いで奏でる楽器の音色さえも発声する。その複雑に重なり合った一つ一つの符号が、人では到底理解し得ぬ魔法の祝詞となる。


 人々はそれを〈賛歌オード〉と呼んだ。


 私は彼らに会ってみたい。


 会って、この世界はどんな想いから生まれたの? と問いかけてみるつもりだ。


 もし、私が再び目を覚ます事があれば。


「アタシの冒険、まだ始まってもないのに……」


 地面へ投げ出した私の肢体が他人のものに見える。冬の川に浚われるみたく、体の感じが消えていく。無感覚の中で、私の声だけが頭の中で響いている。


 好きだったデニムジャケットが、夕焼け色に染まっている。どっぷりと私の血が流れ出していく。私から私が抜け出ていくのを眺めるのは何だかゾッとする。


 けれど、こうした不安感が徐々に薄れていくとやがて多幸感が湧いてくる。「もう楽にさせる準備は出来ている」と世界が諭している。今いる場所が、余計にそう感じさせるのか。


 ここは学園の中にある霊廟。殉国、救国の英雄が眠る場所。


 天蓋の頂にある窓から陽が降り注いでいる。私にではなく、私がもたれ掛かっている墓石に向かっている。ドーム状の霊廟はテラリウムのように緑の豊かな場所だった。


 とても神聖な気持ちになる。今なら、ウンと死んでも良いような気にさせられる。


 もうすぐ息絶える私、ベリタ・フロムオードの独白をここで終える。

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