藤堂組長はキッチリやる男

@ebi_matenrou

藤堂組長はキッチリやる男

「湯田クン、まぁそう緊張せーへんと、座ってくれや。それともアレなんか?ワイの勧める椅子に座れんっちゅうことか?」


 関西一帯を支配している指定暴力団の藤堂組の組長にいわれてしまうと座らないという選択肢は消えてしまった。

「ワイの奥さんとのなれそめをオマエが聞きたいっちゅうからわざわざ時間とってんねや」

 そういうと藤堂組長は葉巻をふかしながらなれそめを語ってくれた。


 ◆


 ことが起きたのは組にちょっかいかけてきたアホをきっちりとしめるために北海道に行ってた時の話や。「お前らでもこの件は処理できるやろ任せたで。」そういって北海道に飛んだんやがそれが間違いやったんやろなぁ。


 帰ってきたときには組の大半、No.2含めた8割が消えとった。あんなにかわいがってやったのになぁ。仁義もくそもあらへん奴らや。

 のこったやつらに報告させたらどうもワイがおらん間に新しい薬が流行っているらしいやないか。

 どうも3段階に分けて人をズブズブにヤクの沼に沈めるって寸法らしいなぁ。「ホップ」でまずヤクに依存させて、「ステップ」で理外の筋力をえて、「ジャンプ」でESP、超感覚的知覚を得る。まるでゲームみたいな話やろ。

「ホップ」を表も裏も関係なくばらまいて依存させて急成長した組織があるらしい。元締めはそこやな。


 ・・・気に食わへんなぁ。ワイが懇切丁寧に指導して育て上げた組のモンをこんな雑なやり方で食いつぶすように引き抜いていくっちゅうやり方が。

 やり口が気に食わんからしっかりシメなあかんわ

 ラッキーなことに元締めは裏で隠れてこそこそするっちゅうタイプじゃなかったらしく、すぐに割れた。

 本拠地に向かう道中、辺鄙な住宅街にもかかわらず、明らかに目がバキバキの決まってる人間、老いも若いも、男も女も、身なりのきっちりした人間から、路上生活者のような恰好をしたモンまで立ちふさがってきた。けったいなことやでホンマ、いくらワイが怖いっちゅうてもこんな人向かわせる必要ないやろ。殺さんようにしばくのも大変なんやぞ。












 一人二人死んだかもしれんが、こんだけおるならまぁ誤差やろ。そのあとも何回か雑兵たちに襲われたがなんなく撃退できたわ。

「こんなんで体力を消耗させれると思ったら考え甘すぎやろ。脳みそメロンパンとちゃうんか。」思わず考えの甘さに独り言が漏れる。

 そうこうして襲撃をうけつつ元締めのおるビルに到着したんはええが入口にバリケード張ってるやないか。やからこんなもん足止めも体力消耗もできへんっちゅうねん。


 ワイ一人乗っただけでブザーが鳴るような、軟弱なエレベーターなんて乗り物なんか信用できへんし自分で走ったほうが早いわ

 やから階段で一階飛ばしに上がっていると、最上階一歩手前で女の悲鳴か嬌声が聞こえてきた。なんや命狙われてんのに女とタノシイことしてんのか。よぉ理解できんわ。


 お楽しみのところ邪魔すんで^^!!


 ワイが社長室の扉を蹴り飛ばして中に入ると社長が座るひときわ豪華な椅子に女性が括り付けられとった。その周りをスウェットを着たいかにも“ニート”のような服装の男が、ニヤニヤしながら何かを女にささやいている。

「くぇrmんbvcxzちゅいおp@」

「ぽいうytれwq」

「あsdfghjkl;:」

「mんbvcxz」

 女は泣き叫びながら「もうやめて......!お願い私の何が悪かったのかわからないけど悪かったからやめて......!」とみっともなく喚き散らしとる。

 何をそんなに喚くほどいわれとんか気になったから、耳に力いれて聞いてみる。


「あんな、カラスってごみをあさりやすくなるよう、影と同化するために生まれた瞬間にネズミの血でヒナを真っ黒に染めるらしいで^^」

「電車って実はミミズの妖怪とかワームのUMAを陰陽師が調伏したのち、機械化手術して運用してるんやで」

「月の裏には人間がおって、地球が再生不可能になった時のために隕石を誘導してリセットする装置をこっちに向けてるらしいで」

「シャワーの時後ろから視線感じるときあると思うけど実は視姦されて喜ぶ幽霊がおんねんで」

「なぁ知ってるか?この宇宙には並行世界がいくつもあって、身分も年齢も違う様々な自分がおる。例えばJKだったり、陰陽師やってたり、普通に会社員やってるあんたもおるかもしれんね。ねぇ!藤堂さん!」

 明らかにウソだとわかるのに、日常が崩れてしまいそうなそんな気味悪いウソ。


 わけわからん事をいうとそいつ「ニート」はこっちを振りかえった。

 確かこいつは渦潮や結界で出入りが困難な魔境、死国を拠点に活動する、暗殺者教団「座敷牢」のリーダーやったか。なんでも教団の長として信奉者たちに対して善い殺し方を教えてるとかで「先生」とも呼ばれているらしい。

 「死国からめったに出ないはずの有名人が大阪まで何の用や?」


 「あの藤堂組長に知ってもらえているとは、光栄ですねェェェ!!!!」

 「なんせはるばるあなたに会いにこんな都会まで出てきたんですから!!!! しかし、あなたとお会いするためとはいえこんなずさんなやり方は少々資源に対しての扱いが雑でしたね。」

 

 なんやこいつよぉしゃべるなぁ。そうおもいつつ道中思ってたことを口にする。「雑魚が武器持っても雑魚に変わらんのなら裸の鉄砲玉の方が金も掛からんでええんとちゃうか?」


「ええ、私もそう考えたんですが、どうも先生が言うには、体力消耗はさせれるだろうということで私もそれに従ったんですよ。」「それがこのざまだ。俺様の言う通り雑魚をぶつけてる間に後ろから刺せばよかったんだ。」「マロはそのような粗暴なことはしたくないでおじゃ。」「いいから依頼をこなしちまおうゼ!!ケヒャァァァァァ!!!」


 ホンマによぉしゃべるやつや。そう感じている間にニートはずんずんこちらとの距離を詰めてくる。


「あんなぁ!信号機の赤はタニシのっ!卵で着色してんねんって!」そう言いながら、ニートはスウェットの袖から草刈り鎌を居合のように抜いた。

 それからもこいつは人格をころころ入れかえながら鎌を振り回してきた。行動と発言を別々の人格にやらせとるからブラフが面倒やな。


 何回よけたやろうか、よけ続けるのにも飽きたから切られてみることにしたんやが......


 ガイィィィィィィィィィン!!!グワワワァァァァンン!!!!


「がっはっはっは!!軽い軽い!魂こもってなさすぎやろ!あぁスマンスマン、無理なこと言うたわ。電車を片手で止めれるくらい強くなってくれや」


 全く効いてないとわかるとニートは色の違う薬を4つ出してまた長々と語り始めた。


 四つ目の薬??


「ホップステップジャンプだけやと思いましたやろ。実は飛べる四つ目の秘薬があるんですわ!」

「よぉ見ておくんなまし。これが『フライ』ですわ!!!!!!!」


 そういうや否や薬を飲みこんだと思うとワイの頭上に影が伸びてきた...!

 飛んだと思いよけ、振りかえるとそこにはニートに顔が瓜二つな人間がおるやないか


「あちゃ~失敗しちゃったか~ごめんねニート。」

「ホンマやお前がこの作戦なら殺せるいうたから乗ったんやで先生。」


 なるほどなこいつらは「二人で一人の暗殺者、ニート先生」ってことやったんか。

 今までの多重人格もすべてブラフ...!


 そっからは惜しみなく人数差を生かして攻めてきた。踏んだり蹴ったり殴ったり叩いたり斬ったり撃ったり刺したり握撃したり毒手したり空掌したり鞭打したり燃やしたり噛みついたり突いたり憑いたり呪ったり穿ったり掴みかかったり絞めたり潰したり焼いたり凍らせたり挟撃したり踏んだり蹴ったり殴ったり叩いたり斬ったり撃ったり刺したり握撃したり毒手したり空掌したり鞭打したり燃やしたり噛みついたり突いたり憑いたり呪ったり穿ったり掴みかかったり絞めたり潰したり焼いたり凍らせたり挟撃したり憑いたり呪ったり穿ったり掴みかかったり絞めたり潰したり焼いたり凍らせたり挟撃したり踏んだり蹴ったり殴ったり叩いたり斬ったり撃ったり刺したり握撃したり毒手したり空掌したり斬ったり撃ったり刺したり握撃したり毒手したり空掌したり鞭打したり燃やしたり噛みついたり突いたり憑いたり呪ったり穿ったり掴みかかったり絞めたり潰したり焼いたり凍らせたり挟撃したり踏んだり蹴ったり殴ったり踏んだり蹴ったり殴ったり叩いたり斬ったり撃ったり刺したり握撃したり毒手したり空掌したり斬ったり撃ったり刺したり握撃したり毒手したり空掌したり鞭打したり燃やしたり噛みついたり突いたり殴ったり叩いたり斬ったり撃ったり刺したり握撃したり毒手したり空掌したり斬ったり撃ったり刺したり握撃したり毒手したり空掌したり鞭打したり燃やしたり噛みついたり突いたり憑いたり呪ったり穿ったり掴みかかったり絞めたり潰したり焼いたり凍らせたり挟撃したり


 が、急にあかちゃんの泣き声が聞こえてきて、ニートと先生は目を泳がせ、硬直した。そんな隙をワイが見逃すわけもなし、殴りつけると、窓から外に吹っ飛んだ。

 オイオイオイ死ぬわアイツ、そう思って下をのぞくと二人の体が霧散していくのが見えた。どういう原理かわからんが、あっこからはそうそう戻ってこれんやろ


 これにて一件落着やな!^^おもたから、窓から飛び降りようとしたその時、ワイの服の裾をつかまれる感覚がした。さっきつかまってた女やないか。


「あの、あなたを見込んでお願いがあります。私と結婚してくれませんか?そばにおいてもらうだけでもいいので。」

 素っ頓狂なことを女はぬかしよった。

「あんなぁ、そんな義理ないわ。はよ消えてくれ。」

 そう言い残し、窓から降りた。

 飛び降りる瞬間、何としてでもそばにおいてもらいますからね!そう聞こえた気がした。



 ニートと先生との決着から数か月後、あの女が事務所にやってきた。排除しようとする組のモンねじ伏せて現れた時には思わず、強いなぁという感想を抱いた。

 開口一番、「やっと見つけましたよ!約束通りそばにおいてもらいますからね!!!」

 約束なんかした覚えはないが、組のモン倒せるくらいなら自衛はそこそこできるやろうし、今はそういうおもろいモン見る気分やったから傍に置いヨメにしたることにした。

 ワイが目的の凶行に巻き込まれたんなら、そこはキッチリとね


 ◆


「・・・というわけや」

 藤堂組長の体験した風景がまるで眼前に浮かぶような語りだった。


「さて、少々疲れたから、話はここで仕舞いや。前にも言うたように、ワイが原因のテロや犯罪は、防がなあかん。表の人間にいい顔するためにもな。」

「そういうわけで今までお疲れさん湯田クン。おイタが過ぎたようやね。まぁ地獄での話題としてこの話は持って行ってもええで。」









 気づくと雲海が下に見えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

藤堂組長はキッチリやる男 @ebi_matenrou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ