バンシーリール

立見

土曜日に生まれた子ども(1)

月曜日の子どもは器量よし

火曜日の子どもはお上品

水曜日の子どもは悲しみが多い

木曜日の子どもは遠くへ行く

金曜日の子どもは慈愛深い

土曜日の子どもはーーーー……




 カスパレクが時計が壊れていることに気づいたのは、茨と山査子の森の中でだった。太陽はとうに稜線の向こうへと姿を消している。血のように赤い空も、じきに深い紺色へと変わるだろう。既に、東の果てでは星が光っている。だのに、止まった盤面は未だ正午を指していた。


「ヴェレン」


 先を行く少年に呼びかける。すると、馬の尾のように揺れる金髪が翻り、彼は立ち止まった。


「地図を見せて。森の中で野宿はできない」


 こちらを向いたヴェレンの、狼のような灰色の瞳が不快気に細められる。機嫌を損ねると面倒なのは分かってはいるが、今回赴いた土地で、夜を屋外、それも鬱蒼とした森で過ごすことはどうしても避けたかった。本来なら、三時間ほどで目的地には着く予定だったのだ。


「何も迷ったと思っているわけじゃないさ。ただ、ここまでかかるほど遠い村でもないはずなんだ」

 

 せめて森を抜けるか、川辺に出られるよう道のりを軌道修正したいところだった。しかし、ヴェレンは顔を背け、何事もなかったように再び歩き始める。


「こら、だから地図を」


 地図を取り上げるしかないと足を速めたところで、やや離れた位置の茂みが揺れた。遠いその音が、徐々に大きくなる。次いで、泥濘んだ地面を駆ける足音も。

 咄嗟に息を詰め、体の動きを止める。ヴェレンも同じようにした。石のように固まった二人とはいくらか木々を隔てた場所を、誰かが通り過ぎていく。

 暗くなりかけた森を、枝の隙間を縫うように一人の女の姿がよぎった。

 脇目も振らず走り抜ける女は、何かから逃げるように瞬く間に森の奥へと消える。女がやってきた方角は、二人が向かおうとしている目的地と一緒だった。


「カスパレク」


 女が去っていた方を呆気にとられたように眺めていたが、珍しくヴェレンに名前を呼ばれる。見ると、少年は進行先の空を指さしていた。

 森は殆ど闇に沈みかけ、空には辛うじて夕焼けの名残が滲んでいる。木々よりも上、控えめに星が輝く天に、薄ぼんやりとした煙が細く昇っているのが見えた。


「あぁ、人家か。よかった、もうすぐ村に着くんだね」


 やはり、先程見かけた女は村の住人なのだろうか。

 死者が蘇った村。

 死者によって、三人の子どもが殺された村。

 その事件の解決が、二人が派遣された理由だった。

 

 


 


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バンシーリール 立見 @kdmtch

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