軌跡‐星屑の楽園に魂を託して‐

白雪れもん

第1話

星屑峰は、小さなため息をついて、日常の喧騒に耳を傾けた。学校からの帰り道、いつものように見慣れた風景が広がっていた。彼は何度も同じ道を通ってきたが、最近、どこか違和感を感じることが多くなった。なんとなく、夢の中で見た光景と現実が重なるような感覚に襲われるのだ。


峰は目を閉じてみた。すると、夢の中で見た場面が鮮明に浮かび上がってくる。ある日、彼は夢の中でこの道を歩いていると、突然車が飛び出してくる場面を見た。その時はただの悪夢だと思っていたが、同じ道を実際に歩いている今、その悪夢が現実になるのではないかという不安が胸を締め付ける。


「まさかね…」


彼は自分に言い聞かせるように呟いたが、その瞬間、遠くから車のエンジン音が響いてきた。峰の心拍数が一気に上がる。夢で見たのと同じように、左側の道から一台の車が急に飛び出してきた。彼は本能的に身を引いた。車は彼の目の前を高速で通り過ぎ、そのまま街角へと消えていった。


「やっぱり…」


彼は息を呑んだ。夢で見た光景が現実に起きたことに衝撃を受けながらも、同時に何か得体の知れない力が働いているような感覚を覚えた。自分が夢で見たことが現実になり、その未来を回避できたことに、奇妙な安堵感が広がる。


帰り道の残りの時間、峰はずっと頭の中でその出来事を反芻していた。夢が現実とリンクしていることを確信し始めたが、それが一体何を意味するのかはわからなかった。ただ、次に何が起こるのかを予測し、慎重に行動する必要があると直感的に感じていた。


家に帰ると、彼は自分の部屋に直行し、ベッドに横たわった。天井を見つめながら、夢と現実が交差する感覚が再び蘇る。これまではただの偶然だと思っていたが、今日の出来事がそれを覆した。何かが起こっている。それも、ただの夢見とは違う、現実を変えるような力が働いているのだ。


その夜、峰は再び夢を見た。夢の中で彼は学校の廊下を歩いていた。廊下の先には、彼の担任の先生が立っており、峰に何かを話しかけている。だが、その表情は厳しいものだった。彼は、何か返事をしようとしたが、言葉が出てこない。先生はさらに険しい顔つきになり、峰に詰め寄った。夢の中の彼は冷や汗をかきながら、どうすればいいのか分からず、恐怖に凍りついていた。


目が覚めたとき、峰は額に冷たい汗が滲んでいるのを感じた。夢の中の出来事があまりにもリアルで、まるで現実で起きたかのようだった。彼は時計を見ると、もうすぐ学校へ行く時間だった。


その日、彼はいつも通りに学校へ行った。廊下を歩いていると、夢の中で見たのと全く同じ場面に遭遇した。担任の先生が、峰に話しかけてきたのだ。彼は瞬間的に、夢の中のやり取りを思い出し、同じ過ちを繰り返さないよう慎重に返事をした。先生は満足げに頷き、再び教室へと向かっていった。


「これで…大丈夫だ」


峰は胸を撫で下ろした。夢の中で怒られた出来事を回避できたことに、再び奇妙な達成感が湧き上がった。しかし、同時に何かが自分を見ているような、監視されている感覚がつきまとった。夢が現実を予知し、未来を変える力を持っているのかもしれないという思いが、ますます強くなっていた。


日々が過ぎるにつれ、彼は夢と現実のリンクにますます敏感になっていった。夢の中で体験することが、現実の中でそのまま再現されることが続き、峰はまるで自分が未来を予知できるかのように感じ始めた。そして、その予知を使って避けたい出来事を回避し、日常生活をより良いものに変えていくことができるようになった。


しかし、幸福感に満ちた日々は長くは続かなかった。ある夜、彼の夢の中に、見知らぬ人物が現れた。彼は「Lemon」と名乗り、峰を楽園のような美しい場所へと連れて行った。そこは現実の世界とは全く異なる、幻想的な風景が広がっていた。峰はその場所に圧倒され、夢の中であることを忘れてしまいそうになった。


「ここは…一体?」


峰は疑問を口にしたが、「Lemon」はただ微笑むだけだった。やがて、夢の中での冒険が終わり、彼は目を覚ました。しかし、目が覚めた場所は、自分の部屋ではなかった。彼は見知らぬ場所に立っていた。その場所は、夢の中で見た楽園と同じ場所だった。


「これは…夢じゃない?」


峰は驚きと恐怖で震えた。目の前の風景はあまりにもリアルで、これがただの夢ではないことを本能的に悟った。そして、その瞬間、彼は自分が死んだのではないかという恐ろしい考えが頭をよぎった。


彼は「Lemon」の正体と、この奇妙な世界の謎を解き明かすため、そして生き返る方法を見つけるために、この新たな現実に立ち向かう決意を固めた。しかし、それは簡単な道ではなく、数々の試練と謎が待ち受けていることを、彼はまだ知らなかった。


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