ときどき口の悪い幼なじみに髪を切ってもらう話

愛内那由多

プロローグ

 金曜日の下校途中、上履きを履き替えようとして、ロッカーに手を伸ばした。残暑が残っている外を見て、不快に感じていた。これから、その暑さに耐えて帰らないといけないのか。


「よっ!花金なのに、暗い顔してんね~」


 と、声をかけてきたのは、同じクラスの幼なじみ、須賀真理奈。腰に巻いたカーディガンがふんわりと、舞っている。


 小中高と一緒の学校に通っているが、高校に入学してからは、少し疎遠になってしまった。連絡は取っているけれど、声をかけられるのは、久しぶりだった。


くせ毛のショートヘアに、イミテーションの宝石のピアスがキラリと輝いている。


「明日、ヒマでしょ?ど~せ」


 傲慢な態度で、言う。


「うちに来てよ。付き合ってほしいんだ」


 そう言うと、つかつかと歩いて近づいてくる。


 僕をにらみつけるように見ながら、


「文句あんの?」


 僕は首を振った。


「決まり。それにしても……」


 僕の顔をじっと見つめる。


 そして、


「髪。ずいぶん、切ってないだろ?気になってたんだ~」


 真理奈は近づいてきて、僕の髪をつまんで、すぐに離した。


「うらやましい」


 確かに、2カ月は切ってないかも。 でも、それを知られていたのは驚きだ。


「うっとおしくないの?それ、最近は片目ずっと隠れてるし~。厨二?」


 そうじゃないけど、あんまり気にしてない。


「もったいないなぁ……」


 つぶやくように、僕に聞かせる気がなかったとしか思えないほどの声量で言った。


「切ってやるから、さ。どうせ、やっすいバーバーとか行くんでしょ?」


 バーバーって。


 普通の床屋さんだよ。


「わたしじゃ、イヤ?信用ないの?」


 数瞬、考える。


「明日の1時にわたしの家な~」


 それより早く、彼女は言った。


 こうして、空白だった明日のスケジュールが散髪で埋まってしまった。


 けれど、帰りの足取りは、少し軽かった。




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