俺が最弱になるその日まで
桐絵 妃芽
プロローグ
もう何度目だろうか。百回を過ぎたあたりから数えるのをやめてしまった。最初の俺が生まれてからは、496年目。暦は便利だ。自分で数えなくても誰かが勝手に数えてくれる。もう五百年近くになるのか。というか、完全数だな。人生三回目の完全数の年齢。数学好きの一人として光栄に思う。こうなると昔の知り合いはほどんど生きていない。たった二人、エルフと魔女がいるばかりだ。もっとも、その二人ともここ数十年会っていないので、生きているかどうか分からない。長く生きてると、お互い示し合わせて会うことなど無くなるものだ。そういえばこの前、自分の出生地に久々に帰った。俺が生まれてから数年後に故郷の国は無くなってしまったが、すぐに新しい国が建国され、今ではこの大陸でも有数の貿易国になっている。そう聞いたのに、俺が訪ねたときは地獄絵図だった。飢え、貧困、病、この世にある災いをすべて寄せ集めたかのようだった。なんでも革命が起こったらしいが、新しく台頭した指導者がとにかく駄目なやつだったらしい。革命が上手くいくなんてのはあまり無いが、仮にも自分の故郷となると、辛さも何十倍だ。生きている間に故郷の国が三回も潰れるかもしれない。そもそも、噂を聞いてから三十余年も経った後に行ったというのが間違いだった。だが過ぎたことを悔やんてみも仕方がないので、今後の予定を立てよう。といってもある程度決まっている。もうすぐ春だ。そろそろあの子を探し始めなくてはいけない。春というのはいい季節だ。生命の営みを感じられる。ここ200年程は特にそうだ。故郷のことも含めて、悪いことが続いたので、今年は特に気分転換になる。そうだ。今年は北に向かいながら、なるべく長く春を楽しもう。どうせすぐには見つからない。少しは楽しみがなくては悪いことばかり考えてしまう。さあ56回目のチャンス。折り返しはとうに過ぎた。悠長には構えられない。今回こそ絶対に、君を助ける。
そのために僕は、また何度でも弱くなる。
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