全てを失った最強剣士は如何様に時を戻り全てを取り戻したのか
古杜あこ
EXTRA STAGE
現在0
肩口を何かがかすったような気がした。同時に右肩から指先にかけて激痛に見舞われた。
慌てて剣を左手に持ち替え、苦痛をごまかすよう唸り声をあげていれば、右肩から指先にかけて<虫>が這いずり回り、食い荒らしていくのが見えた。
腕一本食らって<虫>は四方八方に散らばっていく。
「う、ぐ……っ!」
突然利き手を失ったショックを振り払うように、目の前を飛び交う<虫>の群れを斬りつける。
剣に触れた部分だけが消滅するが、どこからとも集まってきてまた群れと成していく。
本当に厄介な<虫>だ! 利き手ではないので殺傷力は落ちる。
だが、今が最後の機会だ。たとえ体が欠損しようと止まることは許されない。
「ヒュー!」
こちらを心配そうに見やる顔が見えた。
「俺よりも、先に、やれ!!」
絶叫にも近い声音で怒鳴りつけながらもがむしゃらに剣を振るう。腕がないとバランスをとるのも困難で煩わしい。
舌打ちをしながらも足を進める。足を止めた時、それは死だ。
まだ死ねない。
死ぬわけにはいかなかった。
俺を泣きそうな顔で一瞥して、すぐに彼女はその目を前方に向ける。
いつものように手を目の前にかざし、大きく息を吸った。
「……お願い力を貸して……! 制止っ! 」
よく響く声で高々と彼女がそう叫べば、彼女の周りに光の輪が浮かび上がる。
同時に<虫>たちの動きが止まる
「固まれ!」
動きの止まった<虫>たちはその彼女の力により、ひとつの塊へと集められる。
あと、もう少し!
転倒しないよう耐えながらも、俺は剣を構えなおした。両利きというわけではないが、利き手でなくても剣は扱える。そういう鍛え方をしてきた。
ただ、体のバランスがどうもつかみにくかった。
うまく力をのせられるか、どうかは俺にかかっている。
「今っ!!」
彼女が叫ぶと同時に、俺は駆けた。剣を振り上げ、ひとつに固まった<虫>の集合体に渾身の力を込めて振り下ろす。
音はなかった。
静かに<虫>は消え失せ、そしてすべては終わった。
白い世界だけが残された。
世界に在る俺の心は、やりきったというその言葉だけであとは何もなかった。
ここに至るまでの苦悩も困難も、すべては過去のことだ。
この先には何もない。ただただ白い。
不思議と絶望はしていなかった。
残ったのは俺と彼女だけ。そしてこの白い空間のみ。
隣にある彼女は、着ているものも、肌も髪もところどころ<虫>にやられていて、見るも無残なものだ。四肢が無事であることが幸運であるように見える。
しかしその目はまだ澄んでいて、まっすぐに前を見ていた。
彼女がそういう目をしているのを知っていたから、俺も絶望はしていなかった。
一瞬その目が俺をとらえ、何かを言いかけたが、すぐに彼女はかぶりを振った。
俺も何かを言わなければ、と咄嗟に思った。口を開く。彼女の名を呼んだ。
――そして、世界は終わった。
---------------
防御システムヲ終了シマス
プロテクト解除
全テノ世界ヲ解放 時間軸ヲ修正
起動準備開始
-----------------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます