第21話 階段と宝箱
:え? 何どういうこと?
:宝箱ってこんなにたくさん出てくるものだっけ?
:ダンジョンギミック?
:これもトラップなんじゃ
大量に現れた宝箱に、混乱を隠せないリスナーたち。
ただ、僕はそれほど驚いてはいなかった。
(これ、モンスターと同じように宝箱も貯まってるパターンだ!)
通常一匹ずつしか湧かないモンスターが、長年の放置によって部屋いっぱいに増えたのなら、部屋に一個しか湧かない宝箱に同じことが起こっても不思議はない。
それなら恐れる必要はない。
僕はためらいなく宝箱の一つに近付くと、その蓋を開ける。
そして、
「――数は多いですけど、普通の宝箱みたいです」
中に入っていたポーションを取り出し、リスナーに見えるように掲げて見せた。
※ ※ ※
――アドサガでは、宝箱には基本的に鍵はかけられていない。
いや、階が進んでくると宝箱に化けたモンスターやら、テレポーターの仕掛けられた宝箱やらが出てくることもあるらしいのだが、基本的にダンジョン探索ゲームにありがちな「宝箱には鍵や罠があるから盗賊が必須で……」というようなシステムが存在しない。
まあそもそも宝箱の罠解除に盗賊が、というのはMMOよりも一人用ゲームのシステム。
普通に考えて、野良パーティやソロで遊んでいる時に「盗賊がいないと鍵が開けられません」となったらストレスマッハなので、これは納得の仕様だろう。
ということで、僕は順調に宝箱を開き、特に何事もなく全ての宝を入手出来たのだけど……。
:刀は一本も出なかったか
:中身は普通だった
:まあ、一階の宝箱ならそれはね
:宝箱総数は22
内訳はポーション16 装備4 その他2
全体における装備の割合が二割に近いのは
かなり上振れているとは言えます
:たくさん装備が出ても使えないんじゃねぇ
:初心者帯の装備はあふれてて
もう売れないんだよねー
その中身は大半は安価なポーションで、ほんの少しだけ見つけた武器防具も、〈サムライ〉には使えないものだった。
ただ、落胆するコメントとは対照的に、僕は手応えを感じていた。
その理由の一つは、換金所が使えないために入手が困難なポーション類の確保の目途が立ったこと。
そして、もう一つの理由は……。
(――このダンジョンは、難しいだけじゃないんだ!)
ハードモードと思われたこのダンジョンの攻略に、光が差し込んだことだ。
長いこと放置されたダンジョンを攻略するというのは、もちろんモンスターが増えるというリスクはあるけれど、この宝箱部屋のようにリターンもある。
それが分かっただけでも、気持ち的にはだいぶプラスだ。
(最初の部屋でゴブリンがわんさか出てきた時はどうなるかと思ったけど、考えてみると〈サムライ〉ってこのダンジョンと相性がいいかもしれない)
刀気解放のスキルは強力な反面、色んな意味で消費が重く、長期戦には向かない。
極論、一匹のモンスターが十回来るより、十匹のモンスターが一回来た方が対処は楽だったりもする。
その点、敵の数こそ多くとも、部屋によって敵が区切られていて、一戦ごとにバフをかけたり補給したり出来るこの魔王城は〈サムライ〉の適正マップと言える。
(やれる! やれるぞ!)
確かな予感と共にホブゴブリンが出ていた部屋に引き返し、その奥に進む。
「二階への階段、ですね」
まるで僕の心中をそのまま映し出したかのような順調さで、二階への道が開けていた。
「……それじゃあ、このまま二階に進んでみます!」
ダンジョンは奥に進めば進むほど難しくなるというが、一階と二階では、出てくるモンスターに大きな差は出ない。
それなら、多少の数がいたとしても〈刀気解放〉でゴリ押しが出来る。
ここで止まる理由はない。
:行くのか!
:二階に期待!
:二階もまたモンスターだらけだったりして
:それでもライ様なら余裕よ!
:お姉ちゃんはずっと見てるよ!
イケイケムードのコメント欄に力を得て、階段を上っていく。
「あれは……」
最初に見えたのは、高くて広い天井。
この大きさの天井は、間違いなく大部屋だ。
つまり……。
(二階もやっぱり、最初はエントランスからだ!)
探索する側からすると、このエントランスから小部屋に分岐する形式が一番助かる。
嬉しい情報に、階段を上る足にもますます力が入る。
そうしてついに、二階最初の部屋の全体像が見える位置まで上り切って、
「……はぇ?」
吹き抜けの広い部屋に数百を超える魔物がひしめく地獄みたいな光景に、僕は無言で踵を返したのだった。
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初手大部屋モンスターハウス!
バーチャル美少年ダンジョンチューバー ~男が希少すぎる世界で、男装女子と言い張ってダンジョン配信します~ ウスバー @usber
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