第20話 第三回配信
明けて翌日、第三回配信。
「――魔王城からこんにちは! バーチャル美少年ダン……え゛っ!?」
:M5000 お姉ちゃんだよっ☆
:M5000 こんにちは!
:M3000 待ってました!
:ライ様ー!
:M5000 前の配信すごかったです! 応援してます!
:M1000 昨日の興奮がおさまらない!
:M500 桁が一つ少なくても……バレへんやろ(金欠)
:M5000 金欠ならスパチャすんな定期 あ、支援です
:M5000 お茶代ですわー!
:M2000 人生初スパです! 昨日の配信痺れました!
:M5000 興味深い観察対象にいなくなられると困るので
:M5000 これで新しい刀買ってください!
:M5000 あーしも応援してるよ!
:こうなると色ないコメントのが目立つ説
:M1000 わたしも新人です!参考に頑張ります!
:M2500 これを参考にしてはいけない(戒め)
:M5000 スパチャ開放してくれてありがとうございます!
あいさつの途中で、思わず濁った声が出る。
前回配信の最後に約束した通り、スパチャ機能をオンにして第三回を始めたのだが、いきなりの高額スパチャ連打に、つい言葉に詰まってしまった。
「そ、その、本当にありがたいですけど、スパチャは無理のない範囲にしてくださいね」
:M5000 はーい!
:M5000 もちろんです!
:M5000 無理はしません!
:M5000 無(理のない)課金勢です!
:M5000 ここまで満額ラッシュ
:M5000 このコメント欄こわいよー
:M5000 オマエモナー
:M5000 この無駄な連携力よ
「あ、はは……」
ほおが引きつるが、今度はスパチャを止めることは出来ない。
だって……。
(――前回の配信、まさかの赤字だったからね!!)
飛び交う大量のスパチャにビビって止めたスパチャ機能。
けれど、あとで使った刀の標準価格と投げ込まれたスパチャの額を比べたら、余裕で刀の費用の方が上回っていたのだ。
(やっぱり、最後に魅せプのために〈菊一文字〉を使ったのが痛かったかなぁ)
装備の価格は、当然ながら強いものほど高くなる。
ぶっちゃけた話、刀ランク0の〈無銘刀〉ならいくら使っても大した額にはならないけれど、ランク2の〈不知火〉や〈斬鉄剣〉、〈菊一文字〉なんかのお値段は当然財布に響くことになる。
思うところがあってまだ購入自体はしていないから直接の赤字という訳じゃないものの、スパチャは僕の戦闘スタイルには必要不可欠だというのは再確認した。
(リスナーからの支援を当てにするスタイルなんて、あんまり健全とは言えないけど……)
人気が出ればそれだけ強くなれる、と言えば聞こえはいいが、逆に人気が途切れれば大幅な弱体化は免れない。
……まあ、〈サムライ〉のコンセプト自体が古参勢が貯め込んだお金か、重課金者の課金力を前提とした歪なものである以上、まともに攻略しようとしても破綻するのは目に見えている。
結局リスクと向き合うしかないのなら、前向きに行こう。
「それじゃあ引き続き一階の探索! まずは検証がてら、以前開けた部屋をもう一回見てみようと思います!」
:気を付けて!
:またホブゴブリンが山ほど出てきたら……
:部屋の構造って変わるのかな
:一般的にダンジョンモンスターのリポップには
最低でも24時間はかかると言われています
前回探索から20時間程度なので、例にならえば
モンスターリポップの可能性は低いはずですが
:ツンデレ長文ネキ!ツンデレ長文ネキじゃないか!
:長文さんは長文だからすぐ分かるねw
:実は長文ネキ、開幕にしれっと短文スパチャしてたよ
:そこは見て見ぬフリしてあげなよ……
あいかわらずにぎやかなコメントを横目に、まずは正面の扉に向かう。
しっかりと刀の準備をして、扉を開くと……。
「……おっ」
ドアの先にいたのは、部屋ぎっしりに詰まったゴブリンの群れ……ではなく、部屋の中央にぽつんとたたずむ、たった二匹のゴブリンだった。
:モンスター減った!?
:少ない!
:なんか物足りねえよなぁ!
:いや、こっちが普通なんだけど
:いえ、むしろこの短時間で二匹も
ポップしているのは異常です
:みんな感覚麻痺しすぎてて草
:皆さんお忘れのようですが
ここ、一階です
:ソロだと二匹でもキツいよ!
(うん。このくらいなら、刀気解放をするまでもないな)
即座にそう判断すると、ゴブリンたちが襲い掛かってくる前に部屋に入り込む。
二匹のゴブリンを直線に並べるようにして、奥にいるゴブリンが、手前のゴブリンが邪魔になって攻撃出来ないような位置取りを心掛け、そのまま抜刀。
「グ、ギャッ?」
手前のゴブリンを、棍棒を構えた腕ごと『居合抜き』で叩き切って、一体撃破。
こうなれば、もうスキルすら必要ない。
消えていくゴブリンを隠れ蓑に、武器すら構えていないもう一匹のゴブリンに接近。
返す刀で喉をかき切る。
これだけで、終わりだった。
:強い!
:M5000 すごいです!
:立ち回りがもう初心者じゃないんよ
:さすがライ様ですわー!
:いくらゴブリンとはいえ鮮やかすぎる
:キャー!すてきー!結婚してー!
:どさくさでプロポーズすなw
:一撃とは……
(なるほど、ね)
ゴブリンの死体が完全に消えたのを確認してから、改めて考えを巡らす。
どうやら、「探索者がいなかったからモンスターが貯まっている」という僕の仮説は正しかったようだ。
一度貯まったモンスターを倒してしまえば、あれほどの数が貯まるまでにはやはり相応の時間がかかるらしい。
それに、この部屋は前回もゴブリンが出ていたはず。
ほかも調べないと結論は出せないが、部屋に出るモンスターの種類は固定なのかもしれない。
「それじゃ、どんどん探索していきましょう!」
そう宣言して、残りの部屋を確かめてみたところ、やはりどの部屋もモンスターは二匹か三匹程度。
唯一、初日に倒したゴブリンの部屋だけは四匹、ホブゴブリンについては一匹だけしか湧いていなかったけれど、どちらも問題なく処理が出来た。
(うん。これなら刀も節約出来るし、周回にはいいかも)
金銭面を考えるなら、こまめに狩りをする方が効率はいいだろう。
ただ、これには大きな問題もあって……。
(撮れ高が、撮れ高が、ない……!)
刀気解放なしでも倒せるのはコスパ的にはいいことなのだけれど、やはり派手なスキルを使わないと見せ場がないし、危険もないせいで盛り上がりもしない。
それでもコメント欄の優しいリスナーたちは、「撮れ高あるよ! 十分だよ!」と慰めてくれてはいるが、僕は内心で少し焦っていた。
(やっぱり、最後の部屋も開けるしかないか)
ホブゴブリンのいた部屋の奥に、通路は見えていた。
正解の道は間違いなくあそこなのだけれど、ここで一つ、戦闘の絵が欲しい。
「では、開けますね!」
僕はこれまでの探索でも一度も開けたことのなかった最後の九つ目の部屋の扉に、手をかけた。
相手は大量のゴブリンか、はたまたゾンビかコボルドか。
僕は身構えながら、扉を開けて、
「お、おおおおおお!?」
あまりに予想外の光景に、声を漏らした。
なぜならそこで僕を待っていたのは、ギラつく目をした魔物ではなく、無機質な茶色の山。
――部屋に無造作に積み上げられた、無数の宝箱だった。
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