第二部

第8話 世界でもっとも賢しき者

ここから第二部スタートです!

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 前世の記憶が戻り、オーガと死闘を繰り広げてから三日が過ぎた。


「ダンジョン、行きたいなぁ……」


 そう口にして思い出すのは、僕が足を踏み入れた生まれて初めてのダンジョン……〈不可侵領域〉と呼ばれていた、「男性にしか入れない」ダンジョンのこと。


 あのダンジョンの仕様については、あれから少し検証して、大体は把握出来た。


 ――まず、あの半透明のドームには、「男性であり、かつ、ジョブに目覚めてステータスカードを所持している」人だけが入ることが出来るようだ。


 ドームの中で検証している時に別の探索者がやってきて、ものめずらしそうにドームを叩いていったが、中に入ることも、中にいる僕に気付くこともなかったから、不可侵領域が突然誰でも入れるようになった、という線はなくなった。


 また一般的に、ダンジョンに入るにはジョブに目覚めてステータスカードを所持している必要があるらしい。


 一度ドームの外に出て、ステータスカードを横に置いてから入れるか試したら、今度はドームの壁に阻まれてしまったから、前回僕が入れなかったのは「まだジョブを獲得していなかったから」という理由で確定してよさそうだ。


 そして肝心のドームの中だけど……。



《このダンジョンに入りますか?   はい いいえ》



 中心部に向かって霧に触れると、ダンジョンの情報と一緒にこの選択肢が浮かび上がり、「はい」を選ぶとダンジョンの入り口にワープする仕組みになっていた。


 ちなみにダンジョン内部は雰囲気のある城のような造りで、「不可侵領域の中は魔王城」という噂も、あながち間違っていないのかもしれなかった。



 ……と、ダンジョンの検証は大いに捗ったんだけど、検証に夢中になりすぎて、帰るのが遅れてしまったのが失敗だった。


 おぼろげな記憶を頼りに戻った時には、「男の子が街に飛び出していった」と検査会場は大騒ぎ。


「倒れてる人が見えたから助けに行った」「途中でモンスターの姿が見えたからずっと隠れていた」ということで、なんとかごまかしたけれど……。


(あの時は大変だったよなぁ)


 帰ってきた母さんには怒られ、姉さんには号泣され、妹は僕から離れなくなり……で、本当にどうしようかと思った。


 前世の記憶があるとはいえ、僕には母さんたちに育てられ、一緒に暮らしてきた記憶もちゃんとある。

 そこまで心配されたことに困惑する部分もあったけれど、それよりも照れくささと申し訳なさが勝った。


(……まあ実際、命の危険はあった訳だし、ね)


 オーガとの命のやりとりで感じた恐怖は、まだこの胸の中に残っている。


 それでもダンジョンへのワクワクが抑えきれないんだから、我ながら度し難いと思うけれど、こんな僕をあれほど心配してくれた家族のためにも、今だけはおとなしくしておこうと思う。


 それに……。



(家の中にいても、やれることはあるしね!)



 取り出したるは、メタリックな輝きを放つ僕のステータスカード。

 この小さいけれど多機能なカードがきっと、これからの僕の未来を切り開いてくれるはずだった。



 ※ ※ ※



 ――魔力によって通信網が寸断され、機械がその機能を失ってから、世界は分断された。


 インターネットや電話は意味をなさなくなり、テレビやラジオは沈黙し、飛行機やヘリコプターが空を飛ぶ光景も、もはや過去のものとなった。

 未曾有の魔力災害により、人々は有史以来築き上げてきた文明のほとんどを失い、原始的な生活を余儀なくされるようになったのだ。



 ……というのは、日本以外での話。



 日本人が魔力によって無意識に願ったのは、MMORPG〈アドラステア・サーガ〉の現実への再現。


 初めはアドサガのキャラの能力が再現されるだけだったのに、時間が経つにつれて、レベルアップのシステムが導入され、モンスターの種類がゲームのものに近付き、ゲーム内のUIを利用出来るようになり……と、段階的に現実がゲームへと近づいていった。


 これは、「魔法の加速化」とのちに呼ばれることになった現象で、


  「アドサガのキャラの魔法が使える」→「じゃあレベルアップも出来るのでは?」→「レベルアップ出来た!」→「ならそれを操作するUIもあるのでは?」


 と連想ゲームのように次の要素が想起され、多くの人間がそれをイメージすることで魔法として定着する、という仕組みだ。


 そして、次々とアドサガの仕様が現実に侵蝕してきた訳だけれど、このゲームはめずらしい試みとして、ゲーム内からアクセス出来るSNS機能の充実に力を注いでいた。


 そう、前世で「こんな無駄機能作ってる暇あったらバグ直せ」「つべでよくね?」「UIがシンプルにゴミ」と散々な叩かれようだった、ゲーム内掲示板機能や独自のストリーミング機能。


 しかし、それが魔力に支配されたパラレルワールドのこの日本においては、奇跡的な役割を果たすことになる。


 つまり、



【超絶朗報!】アドサガアンチ息してる?www【日本でだけネットが使える!】



 ということである。


 スマホはステータスカードに、電話はフレンドチャットに、ブログはゲーム内攻略記事に、SNSはゲーム内の質問掲示板に、動画配信サイトはゲーム内ライブ配信機能に形を変え、それでもこのパラレルワールドの日本にもネット文化はしっかりと息づいていた。


(だったら、僕がやるべきことは一つだよね!)


 現状、男性が探索者になることは法律で禁じられている。


 しかし、どんなルールにも抜け穴はあるもの。

 広大なネットの海には、きっと男でも探索者がやれる方法がどこかにあるはずだ!


(どんなに時代が変わろうが、ネットの集合知こそが最強って相場が決まってるんだ!)


 実は、数時間前にすでに掲示板にスレッドを建てておいた。

 今頃はきっと、ネットの有識者による有益情報であふれかえっているだろう。


 僕は喜び勇んでスレッドを開き、





1.質問する戦士

男なんだけど、ダンジョン探索者になるにはどうすればいいですか?



2.質問する戦士

クソスレ立てんなハゲ死ね



3.質問する戦士

妄想乙



4.質問する戦士

もうみんな冷たいよぉ!

ほんとに男の子かもしれないし優しくしてあげよ!



てか何歳?どこ住み?クランやってる?



5.質問する戦士

直結厨ワロタ



6.質問する戦士

このスレは早くも終了ですね





 そのままそっと、画面を閉じたのだった。

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頼りにならない集合知!!

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