彼の瞳の色を知れ!《カノヒトミノ イロヲシレ》

せなみなみ

序章      冒険者新書

  序章   冒険者新書


 この世には聖典や聖書といったものに並ぶ、驚異的な総発行部数を誇る本がある。


 その本の名は『冒険者新書ぼうけんしゃしんしょ

 いわゆる冒険者の為の本。


 原題は『ほしすな物語』

 いや、より正確に言えば原題もない。


 初代著者の名はレーヴェ。


 彼女がとある冒険者の心に触れた折に、この想いは形にして残して、より多くの冒険者たちに知ってもらわねばと書き綴ったのが始まりとされている。


 晩年にレーヴェが小瓶に詰められた星の砂を眺めて、


「なんて綺麗……まるで私が書き綴ってきた彼女たちのよう……」


 と、このように謳い残したことから没後、このようなタイトルで発行された。


 それは時を経て次代の綴り手へと引き継がれ、実に千六百年以上経った今もなお、タイトルを冒険者新書と改めて発行され続けている。


 内容は冒険者が係わるありとあらゆる物語。様々な時代で生き、そして死んでいった者たちの物語。


 しかし共通点が一つ。


 この本に登場する彼、彼女らは時に勇者、英雄などと呼ばれはしたものの、決してそれにはなりきれなかった者たち。

 最後の最後、大事なところで選択を誤った、または一人の人間としては正しくあったかもしれない者たちの物語である。


 星の砂……その様にレーヴェが謳った彼女たち……


 それは広い砂浜、無限の如く存在する砂粒の中にある一粒の運命の気まぐれ。決して宝石ではない、いずれは波にもまれて消えゆく存在。

 しかしただの砂粒でありながら、その一瞬だけは確かに光り輝いていた奇跡の存在。


 これはそんなの者たちを綴った悠久の物語である。

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