ボク達が紡いだ未来での物語

初心なグミ

第零章ー百年前の仲間

外伝ー生涯の相棒


 何も見えない暗闇へと深く深く沈み逝く僕は、重苦しくて息すら出来ない海のようなこの世界にただ独り……。

 そんな世界で、暖かな赤い水にユラユラと揺らされている僕に、皆との旅の断片的な思い出が蘇って来る。


◆◆◆


 質素な剣を腰にぶら下げて土まみれになっている皮の服を着ている僕は、活気溢れる街並みとは不釣り合いな狭くて汚い路地裏で縮こまって脅えている……ボロボロな服を着て身体中に泥と傷がある痩せ細った小さな子どもを抱きしめて、そっと微笑み優しく頭を撫でた。


「子どもがそんな目をするもんじゃないよ。ママはどうしたんだい?」


 子をあやす母の様に優しい声で僕が子どもに聞くと、子どもは僕のみすぼらしい服をぎゅっと握りしめ、我慢をしていたのか雨のような涙を流しながら、小さな子どもが僕に訴えかけてきたのだ。


「ママとパパは、僕を護る為に悪人に殺されて死んじゃったよぉ……僕が何も出来ないから……僕が弱いから……僕の家族はもう!皆死んじゃったよぉおおお!!!」


 嗚咽を吐きながら必死に訴え掛けてくる小さな子どもの話を、僕は男の子の頭と背中を撫でながら何も言わずに聞き続けた。

 子どもから溢れてくる感情は後悔と失望……そして、何よりも強いのは孤独を喘ぐ喪失感。

 この様な悲しい感情、小さな子どもが感じていいものでは到底なかった。

 勇者となる前は村で呑気に生活していた僕の少年時代と比べて余りにも酷くて苦しい落差に、僕は勇者として何も出来ていないことを思い知ったのだ。


「…………ゴメンね。僕が弱いばかりに、君の様な小さな子どもに辛い思いをさせてしまったね……ゴメンね……お兄ちゃん弱くてゴメンね……」


 これが勇者として選ばれた僕が、その当日の昼に零した悲観の言葉。

 勇者として選ばれ力を得るのがあまりにも遅く、もう取り返しのつかない過去の話であるのだが、それでも、僕に縋るように訴え掛ける子どもに、謝罪の言葉を言えずにはいられなかった。

 それは自己満足の偽善かも知れない。

 でも……それでも、僕がもっと早くに勇者になって敵を倒していれば、この子はこんな所で泣いていなかったのかも知れないのだ。

 

「んーん、お兄ちゃんの所為じゃない……弱い僕が全部悪いんだよ……」


 ボロボロと涙を流しながら嗚咽を漏らし、しかも弱々しい声で縋るように僕に訴え掛ける小さな子ども……そんな弱い筈の存在は、勇者である僕よりも強くて優しい心を持っていた。

 そんな男の子に感化された僕は、抱き締めていた手を男の子の肩に置いて、男の子に問いかけた。

 

「君、名前は何て言うんだい?」


「ルーカス……です」


「ルーカス……良い名前をパパとママに付けて貰ったね」


「……うん」


 良い名前だと褒める僕の言葉に、嬉しい気持ちと切ない気持ちが混ざったような返事をする男の子。

 それもそうだろう……好きだったパパとママは今は生きておらず、その身体と名前だけが唯一残った形見なのだから。

 

「そんな顔をしたら、パパとママが悲しんじゃうよ。ねぇルーカス……良ければさ、僕と一緒に来ない?僕、今独りで悪い奴を倒す旅に出てる途中なんだけどさ……なんていうか、独りだと心細くて……だから、ルーカスが一緒に来てくれたら嬉しいなぁ……って。どう、かな?」


 ルーカスは僕の提案を聞くと、先程までの暗い表情とは真逆とも言えるような……そんな、子どもらしくて可愛い笑みを零す。


「うんっ!!」


 肯定の言葉を聞いた僕は立ち上がり、男の子に手を伸ばしてはそっと微笑む。


「僕の名前はリアム。これからよろしくね、ルーカス」


◆◆◆


 こうして……当時十五歳だった勇者の僕と、当時八歳だった生涯の相棒となる男の子ルーカスは出逢ったのだ。

 後の二人は、いつも隣に居る様な……そんな、唯一無二の兄弟の様な存在になっていくのであった。

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