10︰合格者の特典
西鬼さんを相手に昇格試験をやった俺達は勝ち取った。
とても大変だったけど、終わったら終わったで合格できたという実感があふれ、猛烈な嬉しさが俺の中に込み上げてくる。
そもそも星七つの探索者である西鬼さんにダメージを与えられたんだ。
奇跡的なことをやり通したんだ。
俺すげー! ホントにやってやったぜ!
『おめでとう、二人とも』
俺が嬉しさを噛み締めていると試験を見守っていたバニラが声をかけてきた。
バニラはそのままアヤメの肩へ飛び乗り、首を包むように丸くなる。
「ありがと、バニラ」
『ちょっとハラハラしたけど、よく頑張ったわね』
「えへへ、とっても頑張ったよぉー。でも、一番頑張ったのはクロノくんだよ」
『そうね、彼がいなかったら合格できなかったしね』
アヤメがそう告げると、配信のコメント欄に〈アヤメちゃんおめでとう!〉〈マジでおめでとう!〉〈ランクアップだ!〉〈クソガキもよく頑張った〉〈すごくシビレたぜ〉といったコメントが飛び交う。
まさかこんな形で祝福されるとは思いもしなかったよ。
それにランクアップか。まだ実感がわかないけど、俺はランクアップできるんだ。
「ガッハッハッ、合格おめでとうお二人さん」
「ホントにおめでとう。あの西鬼相手に合格するなんてビックリよ」
ちょっとずつ昇格試験に合格したんだと実感してきていると、支部長と瑠璃姉が賛辞の言葉をかけてきた。
振り返ると瑠璃姉は二つのアイテムを持っており、それぞれを俺とアヤメに手渡してくれる。
「合格祝いだ。受け取ってくれ」
そういえば合格したらアイテムがもらえる約束だった。
そんなことを思い出しながら一つのアイテムを手に取る。
三つの爪が先端についている機械といえばいいだろうか。
トリガーがあるけど、これはどう使うのかな?
「これはキャッチクローというアイテムだ。試しにトリガーを引いてみろ」
「こうですか?」
言われた通りに俺はトリガーを引いてみる。
途端に先端の三つの爪が射出され、ワイヤーが伸びると同時に十メートル先にあった缶を掴んだ。
「おお、飛んで掴んだ!」
「最大五十メートルまで伸びる優れものさ。ちなみに戻したい時はトリガーを離せばいい」
説明を聞き、トリガーを離してみる。
すると勢いよく先端が戻り、そのまま握っていた缶が潰れてしまった。
「うわっ!」
「ハッハッハッ、こりゃ派手に潰れたな」
勢いよく戻ってきたせいか缶の中身が飛び散り、床もキャッチクローもびちゃびちゃになる。
うひゃー、こりゃすごいことになったな。
気をつけて使わないと潰しちゃうよ。
「ま、ちいとコントロールは難しいが使えるようになればこのアイテムほど便利なものはないぜ」
「へぇー」
「ちなみに固定物や重量がある物体を掴んだ場合はこっちがそこへ向かって飛ぶこともできる。移動にも便利だから覚えておいてくれ」
「わかりました、ありがとうございます」
面白いアイテムだ。でも扱いは難しいや。
そうだな、ちょっと練習したいし今度迷宮へ行ったらいろいろ試してみよう。
「さて、アヤメちゃんにはこっちをやろう」
支部長はそういってもう一つのアイテムをアヤメへ手渡す。
それは手のひらサイズのボールみたいなアイテムだった。
「これなんですか?」
「ライトボムって名前のアイテムさ。といっても無制限に使えるから武器に近い代物だがな。こいつは大きな刺激を与えれば小さな爆発を起こしてくれる。試しに床に叩きつけてみろ」
支部長に言われ、アヤメはライトボムを床に叩きつける。
すると爆発音が響き、同時に近くにいた俺の身体が若干だが痺れてしまった。
「これは僅かな時間だが周囲にパラライズを付呪する効果がある。攻撃力は心許ないが、まあ緊急時にはもってこいのアイテムさ」
「逃げるのに便利そう!」
「ああ、そうだ。だが過信はするな。耐性持ちには全く通用しないから気をつけろ」
「わかりました!」
アヤメはアヤメで便利そうなアイテムだな。
いいなぁー欲しいなぁー。
あ、そうだ。探索者専用アプリ【サーチスキャン】はどうなったんだろうか。
でもあれは、西鬼さんに完全勝利しないともらえないアプリだったな。
今回はギリギリ合格だから、さすがにないか。
「はいはい、お二人さん。今日からこのライセンスバッジを使ってねー」
そんなことを考えていると俺達に瑠璃姉が声をかけてきた。
その手には新しいバッジと見慣れないコードが記された紙があった。
「今日からアンタは星三つ探索者。難しい迷宮に挑戦できるようになったから、頑張りなさい」
「なあ、瑠璃姉。このコードはなんだ?」
「プレゼントよ。ありがたく受け取りなさい」
西鬼さんからのプレゼント?
そんな言葉を受け、気になった俺はさっそくモノクルでコードを読み取ってみる。
すると唐突にダウンロードが始まった。
アプリを確認してみると、【スキャンサーチ】という名前が記載されている。
「えっ? いいのこれ?」
「いいわよ、と言いたいけどさすがに一部機能に制限をかけてるわ。ま、今までより情報は取得しやすいはずだし、探索の役に立つはずよ」
「マジで! ありがとう、瑠璃姉!」
「お礼を言うなら西鬼に言いなさい。あいつからのプレゼントだしね」
西鬼さんからのプレゼントか。
ちゃんとお礼を言わないといけないや。
俺は西鬼さんにお礼を言おうと部屋を見渡すが、どんなに探してもその姿はなかった。
あれ? どこに行ったんだろう?
そんな風に俺が部屋を見渡していると、支部長が教えてくれた。
「あいつなら外に行ったよ」
「え? なんで?」
「詳しくは聞かなかったが、緊急要請を受けたそうだ。まあ、あいつも忙しい奴だからな」
緊急要請ってことは、誰かを助けに行ったのかな?
何にしてもお礼を言えなかったのは残念だ。
「ま、今日は遅い。昇格試験をしたことだし、お前さん達も疲れてるだろうから、ゆっくり休んでくれ」
支部長にそんな言葉をかけられ、俺達は帰ることになる。
なかなかに長い一日だった。
そう感じながら俺とアヤメは迷宮管理局の外へ出たのだった。
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