6:西鬼さんの強さ 前編

★★黒野鉄志視点★★


 ブゥーン、とプロペラを回し、空中で静止しているドローン。

 そのドローンに設置されたカメラで俺とアヤメは見つめられていた。


 なんやかんやで俺は昇格試験を受けることになった。

 しかし、まさかアヤメと一緒にやるとは思わなかったよ。


「あ、クロノくん。よかったらこれをあげるね」


 そう言ってアヤメは一つのモノクルを俺に手渡してきた。

 俺が何気なくモノクルを手に取ると、アヤメはこれが何なのか教えてくれる。


「これはモノクル型端末だよ。レンズに映るアプリを見つめることで起動させたり、システムを使ったりできるんだ。私はこれを使ってドローンを起動させたり、配信コメントを読んだりしてるよ」

「へぇー。結構便利そうだな」

「うん、とっても便利だよ! これから手伝ってもらうし、だからプレゼントするね!」


 アヤメはそう言って嬉しそうな笑顔を浮かべる。それはそれは慎ましく、だけどやはりと言えるようなかわいらしい笑顔だ。

 なんでこんなにもこの人はかわいらしいのだろうか。

 だから配信者として人気があるんだろうな。


 いや、それよりもこのモノクル型端末はすぐに使えるものなのかな?

 こういうのは初期設定とかいろいろ面倒な手順を踏む必要があるし。


 そんなことを考えているとバニラが肩に飛び乗り、俺にこう告げる。


『初期設定は済んでるわ。あとは自分好みにカスタマイズして』

「マジで? じゃあすぐに使えるってこと?」

『そうよ。あ、今は配信始めてるから配信アプリを起動してね』

「どうやって起動するんだ?」


『起動したいアプリを見つめればいいわ』


 俺はモノクル型端末を左目にかけた。

 するとアプリ一覧が広がり、その中にあった配信アプリを見つめる。

 アプリは俺の目を認証したのか、一気に広がりレンズの画面が切り替わった。


 左目に広がるのは天見アヤメが運営する配信チャンネル。

 そこには小さな配信画面とコメント欄があり、俺はコメント欄に目を向けた。

 途端にコメント欄は大きくなり、何が書き込まれているのかハッキリわかるようになった。


「おお、すげぇー!」

『迷宮が登場したから開発できた端末らしいわ。まあ、詳しい仕組みはわからないけどね』


 こりゃすごい。

 意識して見つめるだけで簡単に操作ができるよ。


〈いえーいクソガキー 見ってるー?〉

〈今から変態紳士を調教しちゃいまーす!〉

〈ふ、君達も物好きだな だがどんなことをしようと我が変態道に霞はなし!〉

〈これから変態紳士のオカンに全部ぶっちゃけまーす〉


〈バカめ! 我が母上は私がどれだけ変態なのかを承知している! 今さらそんな報告をしても呆れられるだけだ!〉

〈えー、変態紳士はこれまで数々の子供達を助けてきました 貧困に食糧難、災害復旧から非行からの更生するための援助とそれはもう数え切れないほどの功績を収めて参りました〉

〈え? ちょっ なんでそんなこと知ってるの?〉

〈それはもうすごい活躍です いえ、これは当然のこと だって彼は子供達を助けるためのヒーローとなるべく世界を股にかけるNPO法人に所属する一社員なのです〉


〈やめろ、やめてくれ! 私は変態紳士 みんなに気味悪がられている変態紳士だ!〉

〈へぇー、そうなんだ〉〈俺、ちょっと見直しちゃったな〉〈バカにしててごめんな〉〈お前のこと、もう笑わないよ〉

〈うあああああああ!!!!!〉


 なんだかわからないけど、変態紳士が苦しんでいる。

 まあ、触れないでおこう。


 それにしても科学の発展ってすごいな。

 まさかこんなものまで作れちゃうなんて。

 迷宮のおかげもあるけど世の中、もっと便利になっていくかもな。


「さてさて、お二人さん。そろそろ試験を始めてもいいかな?」


 俺がモノクル型端末に感動を覚えていると西鬼さんが声をかけてきた。

 振り返ると西鬼さんの手にはトンファーがあり、装備を見ると肩当てがない鎧という簡素的なものをいつの間にか装備していた。


「これから君達には僕が着ているプロテクターと似た性質の防具を装備してもらうよ。そうだね、試験内容は【僕の装備するプロテクターを破壊すること】かな」

「装備を破壊、ですか?」


 やることは単純だけど、合格するには難しそうな試験だな。

 そもそも装備破壊って、普通に戦っても起きにくいはずなんだけど。


「安心してくれ。このプロテクターは一度でも攻撃を受けると耐久性がガタ落ちする仕組みになっている。だからどんな攻撃であれ、この装備は簡単に壊れるようになっているんだ」

「へぇー。でも破壊できなかったらどうなるんですか?」


「その場合はプロテクターの壊れ具合で判断するよ。ちなみにだけど、君達が装備するプロテクターが壊れた場合はその時点で試験終了だ。その時は終わった時点での僕のプロテクターの壊れ具合で判断することになるよ」


 つまり、俺達の装備が壊れる前に西鬼さんの装備を壊せばいいってことか。

 どのくらい装備を壊せばいいのかわからないけど、目指すなら完全破壊だな。


「ルールはわかったかい?」

「一応は」

「よろしい。あ、あとハンデとしてスキルを使わないであげるよ」


 西鬼さんが俺達にハンデをくれる。

 当然といえばいいのか、ありがたいといえばいいのか。


「ところで、ここで試験をしてもいいんですか? ビルが壊れちゃうかもしれませんよ」

「それは大丈夫。そうでしょ、支部長」

「ああ、安心してくれ。そのためのギミックは仕込んである。そらポチッとな」


 西鬼さんに話を振られた支部長は壁に設置されていたボタンを押す。

 すると途端に部屋に白い光があふれ、俺達の目を覆う。

 あまりの眩しさに一瞬だけ目を瞑ると、隣に立っていたアヤメが「わぁー」と声を上げた。


「何これ、すごーいっ。みんな見てみて、すごいよぉー!」


 アヤメがそうリスナーに声をかけると、コメント欄が賑やかになる。


〈おお、なんだこの広い空間〉〈精神と時の部屋か?〉〈マジで?〉〈やべーじゃん!〉

〈おおおおおお〉〈こんなのマンガでしか見たことない〉〈時の流れが違ったりして〉

〈環境は大丈夫? 灼熱や極寒にはなってない?〉

〈まんま精神と時の部屋だろそれ〉〈マジで真っ白〉〈何この風景?〉


 コメント欄を見ていると俺の目が次第に慣れ、部屋の変化がわかるようになる。

 するとそこにはどこまでも広がる真っ白な空間があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る