5:復讐の準備

★★デブ視点★★


「おお、なんだこりゃあ」


 鉄仮面から連絡を受け、僕は町外れにある廃工場に来ていた。

 ここは元々、様々な物品を生産していた場所らしい。

 だけど、数年前に基準値を超える有害物質が排水で出たとかどうとかで世間から批判殺到され、あれよあれよという間に潰されてしまったようだ。


 そんな誰も使わなくなった建物に僕は訪れ、その中に眠る大量のアイテムに思わず目が奪われていた。


「やあ、いらっしゃい」


 縦にも横にもずらりと並べられたアイテムの数々を見て、僕が輝かせていると一人の男が声をかけてきた。

 頭はフルフェイスの兜で覆われ、真っ黒なスーツに身を包んでいる背の高い男だ。

 まさに鉄仮面といえる姿だな。ただなぜ服装がスーツなのかちょっときになるが。


「鉄仮面だな。なあ、早く新しい装備をくれ」

「まあ待て。その前に君にこれをやろう」


 そういって鉄仮面はあるものを手渡してきた。

 見るとそれは、白い輝きを放つ探索者の証であるバッジだ。


「なんだこれ?」

「特別な探索者ライセンスさ。これさえあれば、何があろうと君は罪に問われない。つまり好き勝手にできるってことだ」

「マジか! ありがたくもらうよ!」

「ただし、注意点がある。これは確かに君は罪に問われないが、相手も同じだ。どんなに君を痛めつけてもそいつは罪に問われないっていうリスクもある。それでもいいなら受け取ってくれ」


「ふーん。つまり、僕より弱い奴はイジメて強い奴がきたら逃げろってことだね。いいじゃんいいじゃん。何も問題ないよ」


 これさえあれば僕は好き勝手にできる。

 また天見アヤメにトツって好き放題できるってことでもあるしね。

 でもその前に、僕を邪魔したあいつをぶちのめさなきゃな。


 僕は鉄仮面がくれた特別な探索者バッジを受け取り、胸につけた。

 星はゼロになったけど、これさえあれば僕は好きなだけ暴れられるぞ。

 楽しい未来が待っていることにウキウキしていると、鉄仮面が「こっちに来てくれ」と声をかけてくる。


 言われた通りに隣の部屋へ移動すると、さらに嬉しいものが待っていた。


「おおおおお! これは【朧月】じゃん!」


 ゆらめく冷たい光に、うっすらと浮かび上がる月の輪郭が刻まれた鎧。

 兜は三日月が飾られており、どこかの独眼竜を彷彿させる。

 腕を包み込む籠手には様々な月の満ち欠けがあり、まさに不思議なデザインをしていた。


 これは前にもらった【疾風シリーズ】よりもレア度が高い【朧月シリーズ】だ。

 このシリーズは装備するだけで基本能力が上がるうえに、一つでも手に入れれば回避力がとんでもなく向上する。


 それが全部そろってるってすごくじゃないか。

 あとは確か、この朧月シリーズのフル装備のスキルボーナスは【回避力が三倍になる】だった。

 つまり、相手の攻撃は滅多に当たらない状態になる。


 そんなものが僕のものに。

 まるで夢のようだ。


「本当にもらっていいのか、これっ?」

「ああ、いいよ。ちゃんとワガハイに協力してくれるならな」

「ハハッ、やってやるに決まってるじゃないか」


 僕には大きな目標がある。

 あいつへの復讐という大きな目標がね。

 それに、鉄仮面への協力はそれができる。

 だからこそ、あいつに出された条件を飲んだんだ。


「そうか。それじゃあすぐに【機巧剣タクティクス】を奪ってきてくれ」

「ああ、いいよ。それにしてもどうしてタクティクスが必要なんだ? 前はアヤメちゃんを襲えって言ってたじゃないか」

「彼女が持つ特殊アイテムが欲しかったからな。君が派手にやってくれたおかげで手に入れることはできたが、残念なことに壊れていた」

「ふーん、なるほどね。その特殊アイテムの代わりがタクティクスってことか」


 なるほどね。

 ちょっと派手にやりすぎちゃったか。

 ま、仕方ないね。だって僕のチャンネルは派手に暴れるってのがコンセプトだからね!


「事情はわかった。だけど、まだちょっと足りないな」

「足りない?」

「そうだよ。だって、いくら防具がすごくても戦うための武器をもらっていないんだ。これじゃあ、あいつに勝てないよ」


 僕は覚えている。

 あいつは僕の必殺の一撃を簡単に防いだんだ。

 つまり、このまま素手で戦ってもカウンターされて無駄になる。

 だからこそ、あの変な盾を壊せる武器が必要なんだ。


 そんなことを考え、鉄仮面にいうとあいつはちょっと呆れ気味にため息をついた。


「必要ないと思うがね。朧月シリーズがあれば十分戦えるだろう?」

「いいや、ダメだね。圧倒的な勝利を収めるならなおさら武器が必要だ」

「ならこれはどうだ? 火竜の大剣というもので、圧倒的な破壊力をもっているぞ」

「ダメだね。この程度じゃあ、あの盾は壊せない」


 僕の要望を聞き、鉄仮面が頭を抱え始める。

 面倒臭そうにしながら「ワガママな奴だ」と呟いて武器を見繕うとしていた。


 僕はそんな鉄仮面から目を外し、何か目ぼしい武器はないかと探し始める。

 だが、部屋の中を見渡してもいい武器はない。

 どれもこれも見合うものがなかった。


 ふと、何となく部屋の奥に目がいった。

 そこには扉があり、鍵がかけられている。

 僕はその扉をスキルを使ってぶん殴り、ぶち壊すと鉄仮面が叫んだ。


「待て! そっちは――」


 僕は遠慮せず中へ入る。

 するとそこには、一つの武器が大切そうに飾られていた。


 部屋の真ん中にある銀色に輝くロッド。

 僕は直感的にこれは強い武器だと感じ、手に取った。


 直後、全身に電撃が走る。

 そして僕は、これはとんでもない武器だと感じ取った。


「ふへへ、鉄仮面。武器はこれでいいよ」

「ワガハイが困る。それは絶対にダメだ」

「いいや、これがいい」

「お前な……わかった、ひとまず貸そう」


 どうやらこの杖は鉄仮面にとってとても大切な武器みたいだ。

 ふへへ、なら相当すごい武器に違いない。


「なあ、教えろ。これはなんだ?」

「それは【リスキーロッド】だ。レア度はSSRで、リスキーロッドよりレア度の低い装備なら破壊できる特性を持つ。代わりに自分が攻撃をうけたら問答無用で自分の装備が一撃で破壊される。普通ならあまりのリスクの高さに使われない代物だ」


 あまりのリスクの高さに使われない、か。

 だけど、今の僕はそのリスクを回避する【朧月シリーズ】がある。

 だからこれを使わない手はないね。


「ふへへ、いいねいいね。これ、僕の武器にするよ」

「だからそれはダメだと――」

「いいだろ。成功したらくれよ。そうだな、失敗したら違う何かを見繕ってやる」


 鉄仮面は頭を抱える。

 何かを言いたそうにしたけど、諦めたのかすぐに「わかった」と言い放った。


「ふへへへへへっ。話がわかる友達でよかったよ」


 これで僕の復讐ができる。

 待っていろ、クソガキ。

 待っていろ、タクティクス。

 次に吠え面をかくのはお前だ。

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