10︰vs皇花のゴーレム?
「先制攻撃いくよ!」
ボスモンスター【皇花のゴーレム】との戦いが始まる。
まず真っ先に攻撃を仕掛けたのはアヤメだった。
「〈広がるは闇色の空〉〈輝くは欠片の希望〉〈どこまでも続く大地に星々は降り注がん〉――スターレイン!」
アヤメが呪文を告げると途端に流星が降り注いだ。
それはとんでもない威力で、ゴーレムが潰れてもおかしくないと思えるほど。
その証拠に朽ちた遺跡は粉々に破壊され、さらに見るも無残な光景になっていた。
〈いっけぇぇぇぇぇ!〉〈粉砕しろぉぉぉぉぉ!!!〉
〈さすがアヤメの魔法だ これはゴーレムだって一撃だろう〉
〈今日も隕石が降り注いでおりますっ〉〈やっちまえぇぇぇ!!!〉
〈ボッコボコにしろぉぉぉぉぉ!!!!!〉
アヤメの攻撃と共にリスナー達のコメントが盛り上がる。
さすが訓練されたリスナー達だ。そこらの初見とは気迫が違う。
いや、そんなことよりもすごいことになっているぞ。
流星が落ちた衝撃のためか、炎が立ち込めている。
さすがにボスモンスターだとしてもこの魔法を受けたらひとたまりもないだろう。
そう思ったのだが、とんでもないことに皇花のゴーレムは立っていた。
しかも、ほぼ無傷だ。
〈マジかよ……〉〈ピンピンしてやがる〉〈うそだろ……〉
〈そんな こんなのってないよっ〉〈ありえないありえないありえない〉
〈硬すぎないあのゴーレム!〉〈普通なら一撃だぞ!〉
〈あ 配信映像が〉〈ヤバっ、魔法の影響か?〉〈クルクルしてやがる〉
〈ダメだ今止まるな いいところだぞ〉〈ああ、やば 落ちる〉
激しい戦いのためか、それとも他の要因があるせいかアヤメの配信が止まる。
完全に映像が流れなくなったためか、リスナー達が悲しそうなコメントを打ち込んでいた。
まあ、いいところで映像が止まるのは悲しいな。俺だって動画を見てて長い広告が来たらソワソワするもん。
それよりもあのゴーレム、あんな魔法攻撃を受けてピンピンしてるってヤバくないか。
さすがボスモンスターというべきなのか。もしやあのデブより強いんじゃないか?
「硬い!」
『やっぱり強化されてるわね。アヤメ、クロノ! あいつ、通常より強いわよ!』
強化されてるって、普通のボスモンスターと戦ったことないんだけど、俺……
いや、それよりもなんで強くなっているんだ?
相手は星二つ以上になったら倒せる存在だぞ。
「ボックス」
とても気になった俺は、アイテムボックスから鑑定メガネを取り出した。
このアイテムは正体不明のアイテムを鑑定し、判明させるという方法で使われるもの。
だけど、このアイテムを通してモンスターを見れば不思議なことに対象モンスターの名前と大体のステータスがわかる。
ということで、俺は鑑定メガネを使って皇花のゴーレムを覗いてみた。
【神皇花のゴーレム】
生命力 ★★★
魔力 ★
物理攻撃力 ★★★
物理防御力 ★★★★
魔法攻撃力 ★
魔法防御力 ★★★
俊敏性 ★
え? これ本当に星二つ相当のボスモンスターか?
どう見てもそれ以上の強さがあるぞ。
というか名前も少し違うし。
「こいつ、普通にヤバい強さだぞ……」
『これは強化体よ! こいつを倒せば通常個体がとても弱く感じるわっ』
いや、弱く感じるって言われても、なぁ……
『攻撃が来るわよ!』
バニラの叫びを聞き、俺は身構える。
それと同時にゴーレムは拳を握り、大きく振りかぶっていた。
俺はそれを見て攻撃を躱そうとするが、バニラが違う指示を出した。
『盾で防ぎなさい!』
そうだ、俺が持つ機巧剣タクティクスは盾に変形できる。
岩を粉砕するパンチを受けても壊れなかったんだから防ぎ切れるはずだ。
「守れ、タクティクス!」
俺はタクティクスに叫ぶと、途端に姿を変え始める。
気がつけばタクティクスは剣から大盾へ変わり、ゴーレムの拳を受け止めていた。
「うおっ!」
だけど、思っていた以上に拳が重たい。
それでも俺は踏ん張り、ゴーレムの拳を押し返した。
そのおかげか、ゴーレムの身体が後ろへ下がる。
「よしっ」
『まだよ!』
ゴーレムのパンチを防げた。
このまま反撃に出ようとしたその時、ゴーレムはまた秘めたる魔力を解き放つ。
すると関節部分から顔を覗かせていた花が大きく膨らみ、大輪となる。
同時にゴーレムの目の色が変わり、力強く握りしめられた右の拳に魔力が集まっていった。
もし、あんなものを喰らったらひとたまりもないぞ。
ゴーレムから大きなプレッシャーと死への恐怖に俺の身体は震え、その場から逃げ出しそうになる。
だが、そんな俺にアヤメが声をかけた。
「クロノくん! 私、信じてるから!」
なぜアヤメは、俺のことを信じてくれるのだろうか。
まだ知り合ったばかりで、背中なんて預けられないはずだ。
しかし彼女は、俺を支えるようにして後ろに立つ。
俺は信頼してくれる彼女のためにも立ち向かう覚悟を持ち、大盾をしっかり握り締めた。
ゴーレムはそんな俺達を見て雄叫びを上げる。
ただ力強く、ただ固く握られた拳を突き出し、必殺の一撃を俺達に放った。
『――――』
言葉にならない声が響く。
目を向けると、必殺の一撃を放ったゴーレムの拳が砕けていた。
さらに勢いに負けたのか、そのまま尻もちをつき倒れていく。
それを見て俺は確信する。ゴーレムに勝った、と。
『やるじゃないっ、クロノ!』
「褒めてくれてありがとよ!」
「畳み掛けるよ、クロノくん!」
ゴーレムが倒れたのを見計らい、アヤメが再び魔法【スターレイン】の呪文を唱え始める。
俺はというと、バニラに言われたことを思い出しながらタクティクスを握り、駆けた。
今ならバニラの言っていたことが理解できるぞ。
タクティクスは俺の指示に従い、求める武器へ変形する。
もしそうなら、いや絶対にそうだ。
俺は確かな確信を持ってタクティクスに今どんなことをしたいのか叫ぶように指示を出した。
「あの身体をぶっ壊すぞ、タクティクス!」
大盾だったタクティクスは俺の言葉を受け、虹色に輝き始める。
今度はガチャガチャと音を立てながら変形し、俺が望む大鎚になった。
「喰らえぇぇぇ!!!」
先端が丸い大きな鎚の重量は持っていられないほど重たい。
だけど、こいつ相手にはそれでちょうどいいはずだ。
俺は力の限り大鎚を振り下ろし、ゴーレムの胸を叩いた。
するとゴーレムは苦しむような大声を上げる。
よく見ると頑丈な胸に大きな亀裂が入っていた。
「やった!」
「クロノくん、どうにか防いで! スターレイン!」
アヤメは追い討ちをかけるように魔法スターレインを発動させる。
俺は身を守るためにタクティクスを大盾へ変形させ、降り注ぐ流星から身を守った。
『グォオォオオォォオオオォォォォォッッッッッ!!!!!』
魔法による攻撃を受け、神皇花のゴーレムは断末魔を上げた。
さすがは星三つ探索者の攻撃だ。
さっきよりも破壊力が増しているよ。
それにしても、タクティクスは便利だな。
コツさえ掴めば思った通りに変形してくれる。
「戻れ、タクティクス」
俺がそう指示を出すとタクティクスは剣の姿へと戻った。
ちょっとはこいつを扱えるようになったかもな。
『少しは様になってきたじゃない、クロノ』
「ありがとよ」
少しタクティクスを扱えるようになったおかげか、バニラが満足そうに笑う。
俺はというと、使い方がわかってきたから大きな満足感に心が満ちていた。
「やったねクロノくん!」
「ああっ、完全勝利だ!」
俺はアヤメと互いの活躍を称える。
バニラはそんな俺達の姿を見て、微笑ましそうに見つめながら笑顔を浮かべていた。
『見事だ』
そんな俺達に倒したはずの神皇花のゴーレムが声をかけてきた。
俺とアヤメは思わず臨戦態勢を取るが、バニラが『大丈夫よ』と言葉をかける。
『汝の力、しかとその強さを魂に刻み込んだ。汝、【クロノテツジ】は我が主に相応しき者として認めよう』
神皇花のゴーレムはそう告げ、ゆっくりと腰を下ろす。
同時に空から虹色に輝く花飾りが一つゆっくりと舞い降りた。
俺はそれを手に取り、スマホを使って調べてみる。
「マジかよ!」
それは【神皇の花飾り】という名前のアクセサリーだ。
不思議な花飾りで、装備すると十秒ごとに魔力を四分の一回復していくという装飾品である。
まさか星一つの迷宮でこんなレアなアクセサリーをドロップするとは。
本当にこのまま俺のものにしてもいいのだろうか?
「なぁ、アヤメ。これ本当にもらってもいいのか?」
「うん、いいよ。約束したし。あ、でも配信が再開したらちょっと貸してくれないかな?」
「あ、ああ。だけど本当にいいのか? これ、喉から手が出るほど欲しいんじゃないか?」
「欲しくないっていえば嘘になるけど、約束は約束だし。あ、ならこうしちゃうね」
アヤメはそういって胸につけていた星三つの探索者バッジを取る。
そのまま俺の胸についているバッジにかざし、こう宣言した。
「私こと天見アヤメは黒野鉄志が持つ【神皇の花飾り】の取得権を放棄します」
途端にアヤメが持っていたバッジが輝き出し、その光は俺のバッジへ吸い込まれていった。
これは確か、アイテム取得権の放棄だ。
パーティーを組んだ場合、基本は話し合いをして誰が所有者になるか決めることが原則になっている。
その原則にのっとって決まったら、こうして取得権利を自分の意思で放棄する決まりになっているんだ。
まあ、中には力づくで放棄しないって探索者もいるらしいけど、そんなことをしたら次に手に入れたアイテムの取得権がなくなるってペナルティーが設けられている。
だから原則的には話し合い。無理矢理、押し通したらその話し合いすら参加できなくなる決まりだ。
アヤメはその原則に従い、アイテムの取得権を放棄した。
つまり、【神皇の花飾り】は本当に俺のものになってしまったという訳だ。
「あ、ありがとう」
「えへへ、どういたしまして」
なんだか今日はすごいな。
タクティクスも手に入ったし、俺の運は大丈夫なのか?
そんなことを思っていると、途端に地面が輝き始め一つの円陣が出現した。
不思議な文字が刻まれているそれは、魔法陣だ。
普通ならトラップとして存在する仕掛けなんだけど、それがどうしてここに出現したんだろうか。
『よかったわね、アヤメ。これであそこに行けるわよ』
「うん。全部クロノくんのおかげだよ」
アヤメはそう言って嬉しそうに笑う。
それはこれまで見てきた笑顔の中で一番輝いて見えた。
「クロノくん、君が持つタクティクスのおかげで私が行きたい場所に行けるようになったよ」
「それはよかった。ところで、どうしてタクティクスが必要だったんだ?」
「この魔法陣を出すためには特殊なアイテムが必要だったの。でも、さっきの迷惑な奴に襲われた時に落としちゃって。だから、君が協力してくれてよかった」
だから俺についてきてほしいって言ったのか。
なら役に立ってよかった。
「そういえばこれ、どこに繋がってるんだ?」
「迷宮の深層部っていえばいいかな。そうだ! ねぇ、クロノくん。よかったら一緒に来る?」
「来るって、いいのか?」
「助けてくれたしね。だから、そのお礼」
アヤメは手を差し出す。
俺はその手を握ってもいいのかちょっとだけ迷った。
だけど、すぐにその迷いはなくなる。
せっかくここまで来たんだ。
なら、アヤメのいう友達に会ってみようじゃないか。
どれだけ大切な友達なのか、見てみたいしな。
そう、俺が思ったからだ。
「ああ、行くよ」
俺はアヤメの手を握る。
迷宮の奥地で待つ友達がどんな人なのかを一目見るために、アヤメ達と一緒に魔法陣を踏んだのだった。
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