2︰機巧剣タクティクス
星一つの探索者ライセンスを手に入れた俺は迷宮管理局の近くにあった雑貨屋で準備を済ませ、早速【ひだまり迷宮】へ突撃した。
転移床の認証機器でもある柱にライセンスをかざし、目的地を設定して郊外へ移動する。
今までなら転移床は使えなかったが、ライセンスを手に入れたおかげで楽だ。
俺はそのまま迷宮の出入り口へ足を向けると、田んぼのど真ん中に立つ大きな門が目に入ってきた。
一般人は入れない閉ざされた門だが、ライセンスを手に入れた俺には関係ない。
持っているライセンスを使い、認証を済ませて門を開いた。
「おおーっ!」
目の前に広がるのは、温かな光が差し込む森林だった。
一歩踏み出し、周りを見渡すと見たことがあるスズメらしき鳥から初めて見るスライムまで様々なモンスターがいる。
「すげー! ここ田んぼのど真ん中だよな?」
ある種の感動を覚えつつ、俺はコレクター魂を燃え上がらせ探索を始めた。
するとさっそく、キラリと輝く何かが落ちているのを発見する。
ラッキー! アイテムじゃないか。
さっそく見つかるなんて幸先いいじゃん!
そう思い、駆け寄り拾ってみる。
「……なんだこれ?」
手にしたそれは、ガラクタだった。
確か、使い道があまりなく換金アイテムとしても価値が低い。
まあ、出だしはこんなものか。
俺はちょっとだけ肩を落としながらもひだまり迷宮での探索を再開する。
「これは、ポーションのビン! これは、薬草の根っこ! これは、なんかの紙切れ! それでこれは爆裂ムカデ! あ、これは極寒スライムゼリーだ!」
テンションを高くしながら手に入れたものを確認する。
しかし、どれもこれも価値がなさそうだ。つーかほとんどゴミである。
もしかしたら紙切れは価値あるかもしれないが、あまり期待しないでおこう。
この中でいいアイテムといえば、爆裂ムカデと
「はぁー……」
これは参ったな。
まさかこんなにもガラクタを手に入れるとは。
ある程度はそうかもと思ってたけど、ここまで当たりなしだとキツいものがある。
ひとまず、俺のスキル【アイテムボックス】を使ってしまっておくか。
「ん?」
そんなことを考えていると視界の隅でスススッと動く何かを俺は発見した。
俺は気になって逃げるように動く何かをしっかりと視界に捉えると、それは虹色に輝くスライムだった。
「こいつは、レアスライムだ!」
レアスライム――そいつは倒すとレアアイテムを落としてくれるというなかなか出現しない名前通りのレアなモンスターだ。
迷宮に眠る宝箱の中身が復活していることがあるが、それはレアスライムが手に入れたアイテムを保管する習性を持っているためだと言われたりそうでなかったり。
何にしても、レアスライムに出会えたのは超ラッキーなことなんだ。
特にアイテムコレクターの俺としては願ってもない状況でもある。
ということで、俺はすぐに戦闘態勢を取った。
「アイテム寄こせぇぇぇぇぇ!」
「ぴぎゃあぁぁぁぁぁ!!!」
腰に携えていた木刀を握り、レアスライムに向かって振る。
レアスライムは案外動きがトロく、俺の攻撃は簡単に当たった。
そのまま力尽きたのか、ボンッと小さな爆発をするとに煙を上げて身体が消え、代わりに一つの宝箱が出現する。
虹色に輝く宝箱だ。
これはレアアイテムの香りがプンプンとするぜ。
というかこれはもう、期待しないほうがおかしいだろって思えるぐらい神々しい輝きが空間に溢れていた。
「にししっ。さてさて、中身を拝見しようかな」
俺はちょっとだけ手もみをしながら宝箱を開く。
一体どんなレアアイテムがあるのか。
それはどれだけの価値が存在するのか。
いろいろ楽しみにしつつ、中に眠るアイテムに目をやる。
「ん? これは、剣?」
それは片刃の剣。なんだかメカメカしく、全体が漆黒に染まっている不思議な剣だ。
これはアイテムというより武器だ。
「確かこれは、迷宮武器って言ったな」
迷宮武器は人が持つ心音やら体温やらで相性が決まるって性質があり、相性がよければ使用できる存在だ。
ならこの武器はとんでもないレアだ。
しかし、どのくらいのレア度なんだろうか?
ちょっと気になったのでスマホを使って手に入れた剣の画像を撮って調べてみる。
すると検索結果の一番上にこんな名前が表示された。
「機巧剣タクティクス?」
なんだか仰々しい名前だな。
そんなことを思いつつ、タップしてサイトを開いてみるとそこにはとんでもない情報が書かれていた。
「え!? 世界で二つしか確認されてない!!?」
機巧剣タクティクスはとんでもなくレアな武器だった。
レア度でいえばアルティメットウルトラレア。つまりUURという最高ランクに当たる存在だ。
だけど、タクティクスの場合は今までその性能を発揮した人間はいないという情報が書かれている。
だとしてもタクティクスは迷宮武器であることに変わりない。
そんなレア武器が、こんな近場で手に入った。
もしかしたら俺、知らない間に来世の分まで運を使っちゃったか?
「…………」
ま、まあ、そうだとしてもすぐに死ぬことはないはず。
そうだ、ここは冷静になろう。
そう、冷静だ。冷静になるんだ。ビー・クール、ビー・クール。
よし、落ち着いたぞ。
ひとまずタクティクスはアイテムボックスにしまっておこう。
「ボックス」
俺はスキルを発動させ、アイテムボックスを呼び出した。
ちなみにだけど、このスキルは迷宮が出現した時に人々に顕現したそうだ。
詳しくはわからないけど、なんでも自分の中にある大きな欲望がスキルとして発現するとか。
俺の場合はコレクションを手に入れたいって欲望があったから【アイテムボックス】がスキルとして発現したって感じである。
「よしっと。そんじゃもっと探索をしよう!」
俺は意気揚々に迷宮の奥地へ足を踏み入れていく。
まさかそれが、思いもしない騒動に巻き込まれることになるなんて思いもしないまま。
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