バッドエンド確定の悪役令嬢に転生してしまったので、好き勝手しようと思います

大舟

第1話

「アリシラ様、レベラ第一王子様がぜひお会いしたいと言っておられるのですが…」

「追い返してよ。私はみんなから人気な王子様になんて絶対会いたくないから」

「し、しかし相手はレベラ様なのですよ??せっかく貴重な時間を割いてアリシラ様のためにと言ってくださっているのですから、せめて少しお話されるくらいは…」

「私にだって相手を選ぶ権利はあるでしょう?私が嫌だと言っているんだからそれでいいじゃない。そもそも私が第一王子様と良い関係になったって何の意味もないでしょう?」

「そ、そうおっしゃらずに…。も、もうこれで3度目のお声がけです…。さすがにレベラ様からのお誘いを3度もお断りするなど、とても私にはできるものではなく…」

「じゃぁいいわ!私が直接レベラ様に言ってくる!迷惑だからもう来ないでくださいって!」

「お、お待ちくださいお嬢様!!!い、一体どうしてそんな風にお考えになってしまうのですか…。はぁ…。この間までは本当に素直で旦那様に従順なご様子だったというのに、最近になって一体何があったというのでしょう…」


私は今、この国の中でも随一の影響力を誇る貴族家であるアーレント家の屋敷にいる。

いる、というよりも、気づいたらここに居たという方が正しいかもしれない。

私はついこの間まで日本という国で普通に生活をしていたはずだったのに、気が付いた時にはここにいた。

見た目の姿かたちはそのままに、名前だけアリシラ・アーレントという名となり、大貴族の令嬢と言う身分になってしまっていた。

なぜか言葉だけは通じるからそこに困ってはいないけれど、それ以外の事は全部困っていると言ってもいい。


「私は元からこうでしょ!何も変わっていないから!」

「お嬢様!!!お嬢様!!!」


そして、さきほどからしつこく私につきまとってくるこの初老の男は、この屋敷で執事をしているターナーだ。

基本的に仕事はできるタイプの人間らしく、執事らしく丁寧な物腰で誰にでも接する性格なのだけれど、相手が自分よりも格下だと見るやいなや態度を強くし始めたり、うまい話を持ち掛けられたらすぐに乗っかろうとする。

…私が思うに、バッドエンド確定の運命につながる最初のキーパーソンである…。


「こんなにおいしい話はないのですよお嬢様!!今一度お考え直しを!!」

「あぁもううるさい!!あなた自分じゃ分かってないかもしれないけど、あなたのそのいやーーーな性格って完全に相手からざまぁされる性格なの!だからあなたの話に乗っかると、ぜっっっったい私は後から手痛い仕返しみたいなのを食らうの!!分からないわけ??」

「な、なにをおっしゃられているのかさっぱり分かりませんよお嬢様…。だ、だって普通に考えてください?お相手はこの国で一番の権力者であり、最高級の美貌をお持ちであるあのレベラ第一王子様なのですよ?距離を縮めるのはもちろんの事、このまま順調に事が進んで婚約関係などになることができたなら、その時お嬢様はこの国で一番の権力を持った女性となることができるのですよ??他の女たち全員を見下し、うらやましくてたまらないと言葉を吐かせ、自慢して回ることができるのですよ?どうしてこんなチャンスを自ら手放すのですか??」

「だから何度も言ってるでしょ!!私は前の世界でそういう展開の本をたくさん見てきたの!!ここでそんな行動をとったら後から現れた正ヒロイン的な女に全部ひっくり返されて、ざまぁ見ろって言われるの!そうなるくらいなら最初から第一王子様になんて近づかないのが一番の正解なの!!」

「ざ、ざまぁ…?正ヒロイン…?わ、分からないです…。私には、さっぱり…」


繰り返し強く言葉を放つ私の様子を見てターナーはようやく私を説得することをあきらめたのか、とぼとぼとした表情を浮かべながらその顔を少し伏せる。

私はそんなターナーを放って、そのままレベラ様が待っているという応接室まで向かうと、挨拶もなしに乱暴に扉をあけ放ち、中に押し入る。

するとそこには、きらびやかな衣装を身にまとい、美しい姿勢で椅子に座るレベラ様の姿と、その両隣りで護衛を務める二人の騎士の姿があった。

…もう何度も何度もこの目で見ているけれど、何度見てもレベラ様の姿は目に悪い…。

気品あふれるその姿は、私が前の世界で見たファンタジーの物語に登場する爽やかな王様のイメージそのままで、少し油断すれば一瞬のうちに心を奪われてしまいそうな印象を抱いているためだ…。

あらゆる恋愛ファンタジー本を読みこんできた私に言わせれば、この人は本当になんの裏もない純粋な王子様で、たぶんこの世界で一番性格の優しい人…。


「ごめんなさい、挨拶もなしに大きな音を立ててしまいまして。どうです?私って非常識な女でしょう?幻滅したでしょう??」


私は思いつく限りの手を使って、このきらびやかな王子様から嫌われにかかわる。

絶対にそうしなければならないだけの理由が、私にはあるのだから…。

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