「女子」を笑わせることに成功した本日

島尾

当人に知られてはいけない文章

 Uさんという、職場で私が最もお気に入りの女性がいる。本日、急遽シフトが変更されたことによって私とUさんが同じ現場で働くこととなった。彼女の声は国宝に指定しても良いほど質が高く、よく通るものである。それを私のような者が有り難くも耳にすることを許されたことに、感謝している。


 働いているとき、またしてもUさんは最高の声を発した。正確に述べるならば、Uさんが発したすべての声のなかで最も高品質なものが私の耳にとって最高品質の基準を超えた。特に、「はい」と言って私に物を渡すその声、失敗した際に「あああぁぁ」のような心からの落胆を表明する声がかなりの「価値」を有していた。


 彼女は声だけの人間ではない。匂いも最良の区分に属する。すれ違いざま、彼女の全体から芳香がしたのを私は覚えている。すなわち私は彼女の声と彼女の匂いを脳内でブレンドし堪能していた。

  

 人は、私が気持ち悪い男と評すかもしれない。今、この文章を書いている私自身が、私自身に対して気持ち悪さを感じているのだから。しかし、気持ち悪いとされる男が往々にして女の美点を見出す能力に長けていると言えはしまいか。少し前のことだが、私がタリーズでマンゴータンゴスワークルを飲んでおるとき、店員のかわいいお姉ちゃんが一つの行動を起こした。すなわち、それまでコーヒーショップの店員としてクールに接客していたのに、友達2,3人が偶然通りかかった(或いは必然にその店員に会いに来た)とき、店員は態度を180°反転させて「わぁ〜!」などと幼稚にはしゃぎながら職務放棄を犯した。果たして、そこまで大袈裟に喜びを表す必要があろうか。一方でその無駄と思える挙動に、女が男に比べて容易に態度を変更できるということを確認できた。一連の光景を総合して私が思うのは、女を鑑賞するのは面白いということだ。このことは年齢に依存しない事実かもしれない。現に、先の店員がはしゃぎ終わった後に友達に注文を聞いてオシャレなドリンクを紹介し、それに呼応して友達(客)がもぞもぞしながら楽しげにドリンクを選択していたとき、私の座る席の横で、老婆4人組が「夫が肝臓を切った」だの「クスリがまた増えた」だのという深刻な事態をネタにしてゲラゲラ笑っていた。


 とても面白いではないか!


 

 それで、帰路の車の中で、運転席に座る職員のHさんと、助手席に座る例のUさん(国宝の声)がペラペラしゃべっていた。その内容は特段面白いものではなかった。

 私は選択を迫られていると思った。すなわち


1.Uさんを笑わせる

2.このまま無言で帰宅する


 もしスベったら、もし嫌われたら、などという想定が2番の方に私を誘った。しかし、ここで一つの妙案を思いついたのである。直接Uさんを笑わせられないのであれば、横にいるHさんを笑わせてみようではないか、と。ここで、笑いの沸点はHさんのほうが低いことは経験から明らかになっている。とりあえずこのHさんを最初に笑わせ、その後にもっと笑わせることに成功すれば、Uさんの笑いの沸点まで達するかもしれないと予想した。


 結果、Hさんはげらげら笑っていた。対するUさんは「ムハハハ」的な非女性的な声で少しだけ笑った。よって実験的な私の試みは成功したと結論づけられる。


 展望

 意表をつく内容を話すことは、相手を笑わせるのに十分なエネルギーをもつと思われる。それには、日々の出来事を詳細に観察し、記憶しておかなければならない。多くの人が気づかないところに目を向けて自分なりに解析し、記憶に留めておくことが、いつかUさんを心の底から笑わせることを可能にさせる「話題貯蔵庫」を満たしていくだろう。

 

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「女子」を笑わせることに成功した本日 島尾 @shimaoshimao

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