タイピング プラクティス
@bardane
1.あと、ひと月の我慢
やっとですか。
心の中で第一声。
仕事が終わり、帰りたいのに、今から面談。
早く話を終えたい。
しかし、相手はトラブルを避けたいのだろう、戦力外通告に至るまで丁寧な説明が続く。いちいちごもっともですと同意を示すため、早送りボタンを押すように頷く。
早く帰りたい一心で。
解雇されることは知っているから茶番は結構です、と言う気持ちを抑えて事の成り行きを見守る。
聞き及んでいた前例によると、「明日から来なくてよい」となると聞いていたが、私の場合は退職勧奨という形となり、1カ月の猶予期間が設けられてしまった。
この職場を去りたい私としては、突然クビを切られ、給料の3か月分を保証してもらえると踏んでいたのでこの結果に少し落胆させられた。
なぜだろう、良い人と思われたいからの措置なのだろうか。とひねくれた考えが頭に浮かんだ。
偽善者。偽善でもないよりはマシな場合いもあるが、私としては、この経営者に毎日目障りだと思われながら残り1カ月を過ごすより、頂けるものを頂き、すぐにでもこの場との縁を切りすっきりとしたかった。
割と鈍感な方である私が、嫌がらせを受けていると察することができるほどの態度であったし、こちらも相当我慢していた。
経営者なのだから回りくどいことせず、やめさせれば良いのに、と直接は言えないのが辛いところで、だからと言って自分から退職を願い出るには給料が良かった。
また、「我慢が大事。」「辞め癖がつく。」と言われ育った世代だから、と言うことが枷となっていたかもしれない。一番の理由は、この経営者に話を持っていくことが煩わしかったことが大きい。
そのため時間はかかるが、自分が言っていく代わりの作戦をとることにした。職場の人のことをあれやこれや、あることないこと告げ口しトラブルを楽しむことで定評のある人物に、やんわりと私では力不足であり解雇されても仕方なく思っていると控えめな態度で伝え、むしろ業務の質向上のためにも自分は居ない方が将来的にも良いに違いないと力説し、反応を待って半年近く経過していた。
不要な人間と蔑まれながら留まるよりは、少しでも自分を必要と思ってくれるところで働く方が断然良いだろう。お互いの心の健康を考えても。
円満退職のために、そちらの言い分で結構ですと言うしかない。
世事に疎い私ではあるが、経営側の金銭的な損得勘定との天秤で、退職勧奨という形になったのだろうと察した。
あちらの思惑はどうあれ、私は待ち望んでいた自由を得た。
1カ月後に。
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