山賊Aが世界を獲る

たのゆ

第1話

「こんな世界終わってしまえ」


日々の工場での重労働と給料の差からついつい溢れ出てしまう感情。


自分みたいな人間は世の中に何人もいる、自分よりも酷い境遇のものだって数えきれないほどいる。




そんな事は自分だってわかっている。


だが、事実と感情は別なのだ。

そんな合理的に自分の人生を俺は諦めれない。




なんで自分が


こんなに頑張ってきたじゃないか


こんなのおかしい


俺は悪くない、悪いのは周りだ




そういった自尊心が日々溢れて、自分自身が醜くなっていくのを感じながら、毎日を過ごす。


そんなことを真下を向き猫背になりながら考えボロアパートへの帰り道を歩く。


ドン


ふと、前からの衝撃に驚き慌てて前を見るとそこには、大学生くらいのガラの悪い3人組の集団がいた。


「あ、すいません」


「・・・謝るだけで終わりか? あぁ!?」


こちらを足元からじっくりと品定めをするような視線を向けながら、3人組の1人が高圧的に接してくる。


どうやら、こちらが格下だと分かり足元を見ているらしい。


「あ、すいません、すいません」


反抗することもなく、素直に謝る。


「出せ」


「・・・」


「金だよ、金!」


そう言ってむこうはお金を催促する。


「・・・いやです」


渡すわけにはいかない、この中には家賃や光熱費、食費など1ヶ月過ごすお金が入っているのだ。渡せるわけがない。


「・・・あ?」


向こうは眉間に皺を寄せ顔を近づけてくる。


「嫌だと言ったんです!」


こんなに声を張り上げたのはいつぶりだろうか。

大学受験に失敗し、全てがどうでもよくなり家でニート生活をしている時にした、両親との喧嘩以来かもしれない。


「・・・お前、舐めてんのか?」


低いどすの利いた声で右手でバタフライナイフのようなものを出しながら、脅してくる。


「ひっ...わかりました...」


右手に持つ夜の街灯に照らされたナイフの反射光が、目に入るたびに犯行の意思は削がれていく。


モゾモゾとすぐさまリュックから財布を出し、今日工場からもらった給料を全て差し出した。


「な、言ったべ?今日給料日だから絶対に多く獲れるんだよ」


と、ナイフを持った男がこちらから視線を外しナイフをちらつかせながら視線を後ろにやる。


どうやら最初から給料日の今日を狙っていたらしい。なぜうちの工場は口座入金ではないのか、そこだけは本当に運が悪いとしか言いようがない。


「さすが佐田先輩!天才!」

「一生ついていきます!」


周りの2人も佐田先輩?に対して、一生懸命よいしょをする。


そんな光景をナイフを負けられながら見ていた時、ふとある感情が昂った。


それは怒りだった。


今までも当然のように周りに向けていた感情が全て目の前の男へ向くような、今までの不幸全ての元凶がこの男のようなそんな錯覚が起きるくらい心は憎悪に満ちていた。


なんで自分が...


そう思った時には体が震えて、いかにこの男を殺すかを考えていた。


(絶対に殺す!!)


金を取られたとはいえ、初めての相手に負ける感情ではないのは頭ではわかっていた。

だが、感情が体を支配し理性ではもう止められなくなっていた。


今まで首だけで左側に視点を持っていっていたナイフを持った男が、金を取ったことによる油断か、体全体を少しだけ左側に向けた。


そうしたことで、ナイフを持つ右手は自然とこちらに近づき、手を伸ばせば届く位置に移動した。


そこからは、本能のままその男からナイフを奪い、そのままお腹にナイフを突き刺した。


「〜い、〜〜ろ!?」


周りの音は静寂に満ち、ただいまは自分の中の憎悪をこの男に向けて吐き出すだけだった。


両目、頭、胸、胸、胸、と心の赴くままにナイフを持っていた男に馬乗りになりながら突き刺し続ける。


やがて、下からの抵抗感や周りからの力もなくなり、気が晴れ周りに音が戻っていた時、目の前には、血溜まりとズタズタにされたただの死体があった。








(あぁ、きもちぃ〜)


今までの人生が許された気がした、報われた気がした、



遠回りでも見つけた気がした...自分の人生の意味を...


今までが馬鹿らしい、なんで我慢してきたんだろう、なんで抑えてきたんだろう。


...行動に移せば一瞬なのに












そうして俺は、自身の首を笑顔で切り裂いた。






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