第29話「二人の部屋」
改めてカールに部屋を案内してもらった。
僕と兄様の部屋は、三階にあった。
カール曰く、この部屋が屋敷の中で一番大きく、一番広い部屋らしい。
部屋のカーテンと窓は開けられており、窓から日差しが降り注ぎ、風がカーテンをそよそよと揺らした。
窓の外にはバルコニーがあるので、そこから月や星を眺めたらさぞかし綺麗だろう。
部屋のカーテンの色は濃い青色で、壁紙は空色だった。
部屋には天蓋付きのベッドに、猫脚のソファー、使いやすそうな机、木製のテーブルや椅子があり、壁際には大きなクローゼットが備え付けられていた。
壁際にある天蓋付きベッドは、二人で寝ても十分スペースが余るくらい広かった。
王都で僕の使っていた部屋よりはこじんまりしている。
それでも旅先で泊まった宿屋の部屋よりはずっと大きい。
「これにて失礼いたします。ヴォルフリック殿下、エアネスト閣下、どうぞごゆるりとお休みくださいませ。何かご用がございましたら、机上のベルをお鳴らしください。直ちに参上いたします」
「殿下、閣下、わしもこれで失礼します」
「うんカールもハンク、ありがとう。
カール、ハンクにも部屋を用意して上げて」
「承知いたしました」
家令のカールと御者ハンクは、荷物を部屋まで運んでくれた。
ハンクもしばらくはここにとどまるから、部屋を用意してもらえると助かる。
ハンクとは旅の間に仲良くなったし、知らない土地で気心の知れた人間が一人でも多いほうが心強い。
「兄様、バルコニーに出てみませんか?
きっとフェルスの町が一望できますよ?」
「そうか」
僕は兄様に声をかけたが、素っ気ない返事が返ってきただけだった。
ポーチでの一件以来、兄様はずっとこの調子だ。
彼から放たれる圧で、部屋の空気がピリピリしている。
兄様とこんなふうにギスギスして過ごすのは嫌だな。
夜は兄様と添い寝するんだし、仲直りしたいな。
でないと、僕はソファーで寝ることになってしまう。
こういう時は僕から謝ってしまおう。
「兄様、ごめんなさい」
「なぜそなたが謝る?」
「ポーチでの一件のことです。
兄様は僕のために、僕の悪口を言ったメイドに罰を与えようとしたのに……。
僕は兄様の好意を無にしてしまいました」
兄様が僕のために怒ってくれたのは嬉しい。
だけど兄様に簡単に人を傷つけてほしくない。
使用人に対して時には厳しい罰が必要だ。
それは僕もわかってる。
でもやっぱり僕は甘い。
彼らを解雇したり、処刑したりすることが出来ないのだから。
僕が甘いのを知っていて、兄様が代わりにメイドに罰を与えようとしていたのに……。
それなのに僕は……考えなしに行動してしまった。
「そなたが気にすることはない。
それに、良い見せしめになった。
あれだけ脅しておけば、そなたに対し憎まれ口をたたく者はいないだろう」
「兄様は僕の為に、あえて悪役を買って下さったのですね?」
「そこまで考えてしたことではない。
あのメイドがエアネストの悪口を言っているのを聞いたら、
無性に腹が立ち、気がつけば剣を向けていた」
僕を誹謗中傷しただけで、兄様が人を斬り殺していたら、この家から使用人がいなくなってしまう。
「兄様、次からは剣を抜く前にまず話し合いをしましょう」
「気が向いたらそうする」
兄様は素っ気なくそう言った。
◇◇◇◇◇◇
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