アクイレギアの楽園
エノキスルメ
第一章 帝国の崩壊、動乱の始まり
プロローグ そして彼は死んだ。そして彼は生まれた。
その時代、その国に生まれ、彼は幸福な人生を送った。
社会は平和だった。世界の全てが平和なわけではなかったが、少なくともその時代のその国において、戦争は画面の向こう、遠い世界の他人事だった。
家は決して裕福なわけではなかったが、少なくとも生活に不自由することはなかった。両親の愛に恵まれ、温かく清潔な家で暮らし、着るものや食べるものにも困らず、まともな教育を受け、多彩で洗練された文化を娯楽として享受した。
成長し、友人を作り、夢も持った。幼い頃から多くの物語を読み、鑑賞し、いつしか自分も物語を作ることに喜びを見出だすようになった。
少年時代には稚拙ながらも創作に取り組むようになり、やがて本格的に創作で身を立てることを志し、そのための技能を専門的に学ぶ道に進んだ。同じ夢を持つ友人たちと充実した青春を過ごしながら、こんな日々が永遠に続けばいいのに、などと考えていた。
残念ながら、それは叶わなかった。充実した日々は突然に終わった。
不運な事故に見舞われ、彼の人生は呆気なく幕を下ろした。
・・・・・・・・
気がつくと、彼はまどろみの中にいた。
静寂の中で身体がたゆたう感覚。まるで生命の夜明け前のような。原始の海の奥底のような。とても快適で、極上の安らぎがあった。
そこで、ただひたすらに己の人生を反芻する。
まるで音のない映画を観ているようだった。ひどく現実味がなく、何もかもが他人事のようで、しかしそれは確かに彼の人生だった。最期の瞬間まで。大きな衝撃が彼の命を飲み込む一瞬まで。
そう、死んだのだ。自分は。あのとき確かに。
では、ここはどこなのか?
どうでもいいと思った。気怠くて、心地よくて、考える気になれなかった。
まどろみに浮かびながら、飽きることもなく人生を振り返り、その果てに――今までの安楽の代価を求めるように、恐ろしい痛みが襲ってきた。
激流が全身を揺さぶり、目と耳と肌を刺す光が迫り、そして彼は生まれた。
二度目の誕生、二つ目の命だった。
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