35 流行り病


 救護室に向かう途中、廊下には毛布の上で貴族や使用人たちが横になっていた。


 こんな状態が、王都全体に広がっているのか!

 早く手を打たないと大変なことになる。


 私たちだけが朝食を摂っている場合ではない。


 二十年前の流行り病では、高熱によって子供を授かれない人たちが増え、今の王都の少子化につながったと聞く。


 何か手は……まずは、トラブルの緩和だ。



「このままでは脱水症状が重くなります。魔法で水は出せますか?」


 脱水症状は、前世で得た知識だ。まずは、冷たい水を、飲ませるのが良いらしい。

 私には王宮のことが分からない。知識の豊富なマーキュリーさんの力を借りる。


「はい、侍女全員が、水属性の魔法で出せます」


 王弟殿下の侍女6名全員が王宮にいるのか。よし、清潔な水は確保できる。


「では、塩と砂糖は?」


「はい、塩と砂糖は、調理場にあります」


 材料も、そろう。


「調理場では、病は流行っていないのですか?」


「はい、王族や上級貴族に関係する場所では、流行っていません」


 なぜだろう? 今は考えている時間はない。重症化を防ぐのが先だ。



「では、ビールの中ジョッキに、冷たい水、砂糖大さじ1、塩小さじ4分の1を混ぜた飲み物を作ります。それを、ゆっくりと飲ませて下さい」


「わかりました。調理場に命じます」


「命令……そうですね、王弟殿下の名前を使わせて頂きましょう」


「最後に『早く元気になぁれ』と祈りを込めて下さい。水の名前を『聖なる水』としましょう。急いで配って下さい」


 ◇


 侍女たちと、調理場の動きは早かった。

 あっという間に『聖なる水』が、大ダルに何杯も貯まった。


「これを皆さんに配る手は、ありますか?」


「はい、王弟殿下の命令だと言って、感染していない給仕たちを使います」


 王族や上級貴族の関係者が感染していないのはなぜだろう? 何か引っかかる。



「では、王宮は給仕たちにまかせて。侍女たちは、王都に『聖なる水』を配ります。馬車6台に『聖なる水』を積んでください」


「はい、騎士団長に手伝いを依頼します」


 マーキュリーさんは、騎士団長も動かせるのか。侍女と騎士団は、驚くほど連携がとれている。


「侍女たちは、馬車に分乗して、王都6方向の、自分たちの出身の聖堂へ、向かってください。私も出ます!」


「はい……フランソワーズ様は、コノハ様に似てきましたね」


 マーキュリーさんが微笑んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る