27 隣国のメガネ
「フラン、ひどい目に合ったな」
サクラの声で、目を覚ました。
ベッドが硬い……上半身を起こすと、私は、学園の廊下で横になっていた。
見渡すと、近くでは、多くの生徒たちが、廊下で横になっている。
私は、全身ずぶ濡れになっていたはずだが、サクラの侍女のクリーン魔法で、服を乾かし、スッキリ爽やかな状態に戻してもらっていた。
「フラン、もう体は動くか?」
サクラが心配してくれた。
私は冷たい水が苦手で、学園ホールでの混乱で水に濡れ、さらに電撃でシビレ、気を失っていたのだった。
「ありがとう、もう大丈夫」
大丈夫じゃなくても、ここは大丈夫だと言わないと……
「これを拾った」
サクラが、メガネを見せてくれた。
「ペテン師の女性が持っていたメガネだ。これを使うと……」
サクラの黒い瞳が、紫に変わった!
「隣国では、瞳の色を変えるメガネを開発したようだ」
これなら、だれでも紫の瞳になって、聖女だと言う事が出来る。
言われてみれば、隣国のスパイ、詐欺師も、ペテン師と同じメガネを使用していた。
「では、私は、他の生徒たちの治癒を行います」
そう言ったサクラの侍女、いや、王弟殿下の侍女は、紫の瞳だった。
「今の侍女、紫の瞳で、治癒魔法を使えるのなら、彼女こそ聖女なのでは?」
「いや、彼女は聖女ではなかった」
サクラが答えてくれた。
「でも……」
世間では、治癒魔法が聖女の証だと言われている。
「治癒魔法を使えることが、聖女の条件ではない」
たしかに、治癒魔法を使える女性なら、数多く存在する。
「治癒じゃないなら、聖女の役目って、何なんだろ?」
聖女の役目が分からないと、偽物だと言われても反論できない。ご主人様の小説の、追放された聖女のように……
「友好国の聖女は『国を勝利に導く者』と言ってたが、オレにもわからん」
友好国の聖女か……会ってみたいな。
「あれ? 勇者パーティーに、聖女はいなかったよね?」
「よく知っているな。たしかに、勇者、賢者、僧侶の三名だった」
サクラは、勇者パーティーの伝承について詳しい。同い年のはずなのに、いったい何歳なんだ。
「よくわからんが、聖女は、僧侶の上位なのかも……以前、友好国の聖女は、パーティーの力を増幅する者、膨大な魔力量を持つ者を探していたな」
何のことか、分からない……私の目指す大人の女性と、聖女は、一致するのだろうか。
「サクラ様、生徒の治癒が終わりました。あとは、教師の指示に従って、教室で休むのが良いかと思います」
紫の瞳を持つ侍女が戻ってきた。
私も、彼女のように、治癒魔法を使って、人たちを助けたい……これは、嫉妬?
「ペテン師の一団は全て投獄し、第一王子は謹慎となるでしょう」
騎士団長も来て、サクラに報告した。
私だけ無力だ……なんだか、何も力を持たない自分がむなしくて、哀しくなる。
(そんなことはない)
え! 今のは声? 声変わり前の男の子のような、女の子のような声が、頭の中に聞こえてきた。
(フランソワーズは、治癒魔法も使えるし、本物の聖女だ)
えぇ! 胸に隠している四角い宝石がしゃべった!
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