11 第一王子のハーレム


「他の令嬢なら良いと言うのか!」


 キスを邪魔された第一王子が憤慨した。

 問題点が、すり替わっている。筆頭侯爵と正妃は、私と婚約しろと言っているのに。



「それなら、僕はハーレムを作って、キングになる」


 正妃、筆頭侯爵そして国王まで驚いている。

 私と王弟殿下は驚かない。第一王子は、そういう男であると知っているから。



「わかりました、私はタロス様のハーレムで、クイーンとなります」


 イライザが、これまた訳の分からない事を言い出した。



「行くぞ、イライザ。これから作戦会議だ」


「はい、タロス様」


 二人は仲良く手をつなぎ、謁見の間を後にした。

 残るのは、呆れたという乾いた空気だけである。



「正妃様……フランソワーズ嬢が侯爵令嬢の地位を失い、男爵まで落ちた今、第一王子様との政略結婚は、意味をなさないのでは?」


 ピエールヒゲが、疑問を口にした。


「国王陛下は、少し延期するとおっしゃられたのだ。それに従え」


 正妃は、苦い顔をしている。筆頭侯爵も、何か企んでいるような顔だ。



「クロガネ……」


 国王が王弟陛下に話しかけた。


「王位継承権を破棄すれば、王族であっても、平民と婚姻を結べるルールは、今も変わりないか?」


「はい、昔のまま、変わりありません」


 王弟殿下が即答した。まるで、調べたことがあるように。


 という事は、王弟殿下が王位継承権を破棄すれば、男爵の私と婚姻が可能なのか。


 いや、あり得ないことだ。彼は、独身を貫き、王国のために身をささげるのだから。



 国王は、黙って謁見の間を出ていった。正妃と筆頭侯爵も続いた。


 謁見の間は、私と王弟殿下の二人だけになった。


「フラン、もし俺が……」


 王弟殿下が何かを言いかけた。



「なんだ、もう終わっているのか」


 突然、謁見の間の扉が開いた。外に立つ護衛兵は、いったい何をしているのだ。あ!


「女王陛下!」


 国王に地位を譲った元女王が入ってきた。実質的な、この王国のナンバー1だ。


 すぐにカーテシーで挨拶の姿勢をとる。元女王は、マナーに厳しいと聞いている。


 長い静けさに、汗が噴き出る思いだ。実際には、ほんのわずかな時間だったろうが。



「コノハ女王陛下、どうかしましたか」


 王弟殿下が冷静に対応する。元女王は、彼の実の母だ。


「クロガネがいれば、いいか。聖女召喚の準備が出来た。それを伝えに来ただけだ」


 元女王の言う聖女召喚とはなんだ?


「そこの令嬢、表をあげろ」


「はい」


 許しが出た。顔を上げて、直立不動の姿勢に変える。


 元女王は、金髪で青い瞳、年を感じさせぬ美貌を持ち、風格のある大人の雰囲気を崩さない女性だ。


 ほんのわずかでも、元女王の気品を吸収できればと思う。



「……フランソワーズか、大きくなったな」


 元女王が私のことを覚えていてくれた。驚きと共に、うれしさが沸き上がる。


「ちょうどいい、フランソワーズにも話しておこう」


「聖女召喚とは、魔王討伐百年行事の目玉として、異世界から聖女を召喚するものだ」


 元女王は、話しながら、私を吟味しているようだ。



「くだらないと思うかもしれないが、これも政治だ。成功すれば、国民を鼓舞し、国の安定につながる」


「コノハ女王陛下、そのくらいで」


 王弟殿下が、割って入った。なにか困る事でもあるのか?


「そうだな……フランソワーズは、勇者パーティーが持っていたとされる『秘密の宝石』の話を聞いたことがあるか?」


「いえ、ありません」


 勇者パーティーなんて昔の人たちだ。教科書で習った程度しか知らない。


 ただし、別物だろうけど、不思議な宝石なら、私も持っている。


「そうか忘れてくれ、門外不出の伝承だ」


 そんな話を、王族以外の私に話してどうする!



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