あの空へ-11

シエラの宣言の後、島中が一瞬静まり返った。


「見たか、傭兵。

 所詮、人なんて金だ。金の魔力の前には何人たりとも逆らえぬ。

 今、この島で最も富を持つ私には、犬どもを平伏させる権利が――」


シエラは無線を通じて、ウルフに勝利の宣言をしようとした。

直後、滑走路上の彼女の乗機に砲撃が落ちた。

それも一発、二発ではない。

数十発の砲弾、上空からの機関砲が、ペガサスに命中した。


ぎいいいいいいいいいいいいいい。


ドラケンの無線機が不愉快な雑音をあげる。

ウルフはそれをノイズだと思ったが、よく聞くと、今まさにそれは高温で焼かれているシエラたちの断末魔だと気づき、すぐに無線を切った。

そして、静かに首を横に振った。


「謝れば済む話じゃないことは分かっていたが、こうなることは望んでいなかった。


「ただの自業自得じゃないか。ざまぁみろだぜ。

 そんなことよりまずいぜ、滑走路が残骸でふさがっちまった」


ペガサスは濛々と燃え上がり、あふれ出たオイルから、滑走路全体に延焼している。

アシアナ王国での車両を飛び越したのとはわけが違う、燃える滑走路を離陸できる機体なんてどこにもいない。

そうこうしている間に、ドラケンのコックピットが激しく揺れる。

ドラケンの格納庫のすぐ近くに砲撃が落ちたのだ。


「畜生、どうする?

 空のことは知らないが、滑走路がなければ、飛行機は離陸できない。

 そのくらいは俺だって知っている」


「いや、できる」


「なんだって?」



ウルフはドラケンを格納庫から出すと、燃える滑走路とは逆側にタキシングさせた。

飛行場の外側に向けて、ドラケンをゆっくりと走らせる。

シェフの仲間たちが、飛行場のフェンスを乱暴に破壊し、ドラケンの通り道を作った。


「大通りを制圧しろ。こいつの離陸を邪魔させるな!

 ……おい、本当にいけんのか、道路からの離陸なんてB級映画でしか見たことないぞ。アスファルトに埋もれちまうんじゃないか?」


シェフはコックピットによじ登ったまま、仲間たちにトランシーバーで指示を出すと、小声でウルフに尋ねた。


「やったことはないが、行けるはずだ。

 グリペンと同じ血を引いているんだ」


「そうかい。うまくいくことを願ってるぜ。

 俺たちは戦闘機を落とす対空ミサイルなんて持ってない。

 この島、結構気に入ってんだよ。頼んだぜ」





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