人類はまだ…

「JF党の存在を聞き及んだ時、嫌な予感がしたのです。そして彼女たちが私の教えをかつて受けた存在だと聞き、血の気が引きました」


 JF党については今更言うまでもないが、彼女たちがこの神父のような存在を求めてしまった事だけは間違いのない事実だった。

 世界中が彼のように女性に対して優しく、頭がよく回り、それ以上に女性に対して色欲を持たない事。


 その夢物語を実現させるため、彼女たちが取った手段は合法的だったかもしれないが乱暴だった。


 数年かけて送り込んだ住民たちに思想を含ませて広げ、自己完結的で引きこもり的だった思想を世界中に広めるように誘導した。結果女性だけの町で早くから冷遇されていた第三次産業の女性たちに思想は広がり、一時期半数近くの議席を獲得していた。

 だがそこで、半数よりやや多い議席を持っていた議員たちは彼女たちを止めた。

 止めようとした。



「まだ、女性だけの町の大義は暴走も腐敗もしていないと言えます。しかし、あくまでもまだ、に過ぎないのです」


 その演説に現在の二大政党の党員たちは拍手喝采を送った。







 ————————————————————非暴力不服従。







 女性だけの町をもっとも端的に表した言葉は何かと言われた際にかなり高い点をもらえそうな答えはこれだろう。


 女性だけの町が出来る以前から、彼女たちの好まぬ存在が世を支配していた。拙劣な反対運動もあり優秀な人間が彼女らとの闘争と言うか才覚の発揮に躍起になった事もあり戦いは不利に傾き、結果的に第一次大戦と言う名の最大の失態を貸した彼女たちは敗戦した。

 そして残党の中で戦いをやめなかった人間たちの末裔と言うか末路こそ、女性だけの町の住人だった。

 


 ただその女性だけの町の戦いがマハトマ・ガンディーと決定的に違う事があるとすれば、彼女たちの戦いは本来の意味からひどく変容していたと言う事だった。

 


 元々彼女たちは非暴力不服従とか言う崇高なる理念などなかったと自嘲しており、あくまでも自分たちの気に入らない存在から逃げるためでありそれこそ外の世界のっ連中に反省を促すためと言う上から目線な行いであったと町内で編纂された歴史ガイドにある。随分と恥ずかしい話だが堂々と観光客すら無料で見られるガイドに掲載している以上、目を背ける気はないのだろう。

 そしてそれは、消極的か積極的かだけでJF党のやり方と近かった。


 JF党はそれこそ女さえも性欲に溺れる事を嫌い、その手の施設を廃止し公務員と言う名の性欲解消担当の存在を解雇しようとした。

 —————第二次大戦と言う名の女性だけの町を作るための戦いにおける最大の敵が性欲だったと言う、やはり無料歴史ガイドにも載っているような情報を無視して。




 彼女たちは、第一次大戦にすら参加していなかった。


 一応友軍であったつもりだったが表立って活動する事もせず、平たく言えば日和見派だった。


 そんな存在にとって、女性だけの町と言うのは物語の中の存在でしかなく、ましてやその第一次大戦の言うなれば敗残兵が本当に女性だけの町をその理念を貫くためだけに作るとは思っていなかった。


 そしてその結果、女性だけの町に移り住んだ存在が嫌っていた物が息を吹き返し自称友軍にとってますますやりにくい状況が出来上がった。そんな彼女たちにとって女性だけの町の住人は敗残兵と言うか前線で戦い続けた歴戦の勇士であり、死してなお戦う英雄だった。

 だがその戦いは、第二次大戦の最中での肉体労働の労苦や女性から女性へのレイプ事件が多発した事により、産婦人科と言うシステムを発明した所で自分たちが性欲とは結局無縁ではいられずかつ男たちにどうしてもはっきりと劣っている分野があったと言う現実を叩き付けられた彼女たち自らの手によって、既に敗戦で決着していた。

 それでも現在なお外の世界で増えている男性的娯楽を拒否するのは女性だけの町のアイデンティティであると共にどうしても煽情的すぎるそれに彼女たち自身が耐えられないと言うそれであり、全くの是々非々でしかない。


 勝手にやってろ、こっちも勝手にやるからと言うある意味自由気ままな町。


 それが現在の女性だけの町だった。



 だがその戦争をやめてしまった人間たちの存在はJF党の人間からしてみれば下手なオトコよりもずっと憎々しく見え、同時に情けなく思えた。

 助けてあげなければいけないと、思い込んでしまった。


「その結果が、あの第三次大戦です。それこそ町中の全ての住民に自分たちの仲間になれと迫った……」

「もしJF党が勝っていたら女性だけの町は滅んでいたでしょうか」

「今はまだ生きていたと思います。しかし、今後はわかりません」



 言葉を飾ってはいたが、おそらくJF党の未来は明るくなかっただろう。


 それこそ少しでも性的だ、男性的だと思う存在を食い尽くし、町内の敵を食い尽くすと自分が認めない存在全てに向けて噛み付き、敵を全滅させるか自分たちが全滅するかまで戦い続ける最終戦争を起こすかもしれない。

 そうなれば女性だけの町は夢幻どころか塵芥として消え失せ、その理念そのものが邪教のようになってしまう。

 それで一体誰が幸福になると言うのだろうか。


「彼女たちは言ってましたよ。自慰ネタを守り切ったキモい連中だけは喜ぶでしょうけどねって」


 彼女たちが何より忌避して来た外の世界のアニメや漫画、ゲームなどは女性だけの町が出来る前よりも過激さを増し、さらに旧来消えていたと言うか押し潰されていたと見なされていたそれも蘇っている。

 それがもし自分たちにとって敗北だと言うのならば、女性だけの町が作られなければよかったとか言う事になりかねない。それこそどうあがいても絶望とでも言うべき話であり、彼女たちに元から救いなどなかったと言う事になる。




 正直な話、今私は自分が宗教家でない事に安堵している—————。

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