愛のかたち、未来の姿

高校生活を送る翔太と莉奈は、表向きにはただの親友として周囲に振る舞っていた。


しかし、二人の間には隠しきれない深い絆があった。


それは、外の世界には見せることができない、裏で育まれてきた愛情であり、二人だけが知る秘密だった。


「翔太、今日は一緒に帰ろう?」 莉奈はいつもと変わらない笑顔で言った。


その声は軽やかで、周りのクラスメイトたちには親友同士の何気ないやり取りにしか見えない。


しかし、その内には互いにしか分からない微妙な感情が含まれていた。

「もちろん。放課後、待ってるね。」 翔太も自然に返事をする。


自分が女の姿であることに、少しのぎこちなさもなくなっていた。


それどころか、セーラー服のスカートが風に揺れる感覚にさえ、今では慣れてしまった。


放課後、二人はいつものように並んで学校を後にした。


人目を避け、少し離れた公園へと歩きながら、翔太は心の中で考えていた。


表向きには女性として生活し、莉奈とはただの親友。


だけど本当は…もっと特別な存在でいたい。


だが、それを外に公言する勇気はまだない。


翔太は自分の胸中を整理しようと、ふと莉奈の横顔を見つめた。


「翔太、最近どう?学校で何か変わったことない?」 莉奈が不意に尋ねてきた。


「特にないよ。みんな相変わらずだし…」 翔太は少し言葉を濁した。


学校では、男である自分を隠し通す生活が続いていた。


今の姿になってから、周りの男子からの視線も、女子からの扱いも変わったが、幸いなことに、大きな疑いを持たれることはなかった。


しかし、どこか不安な気持ちは残っていた。


「大丈夫だよ、翔太。私がいるから。何があっても一緒だからね。」

莉奈はそう言って、軽く翔太の肩を叩いた。


「うん、ありがとう。莉奈がいると本当に安心するよ。」 翔太は自然と微笑み返した。


その笑顔は、莉奈にだけ向けられた特別なものであり、二人の間に漂う空気が少しだけ甘くなるのを感じた。


家に帰ると、翔太と莉奈は表向きの親友という関係を少しだけ離れ、恋人としての時間を過ごすことができた。


特に誰の目もない自宅では、二人はリラックスし、素直にお互いの気持ちを確かめ合っていた。


「翔太、最近ちょっと大人っぽくなってきたよね。」 莉奈が軽く笑いながら言った。


「そうかな?自分じゃよくわからないけど。」 翔太は苦笑いしながら、少し照れくさそうに答えた。


「本当に。顔立ちも綺麗だし、なんだかますます女の子っぽくなってきたよ。」


「…それ、褒めてるの?」


「もちろん!」 莉奈はニコッと笑って翔太に近づく。


そして、ふいに翔太の胸元に手を伸ばし、セーラー服の上から優しく触れた。


翔太は驚いたが、抵抗することなくその手の温もりを感じた。


「莉奈…?」 翔太は戸惑いながらも、莉奈の真剣な目を見つめ返した。


「なんだか、こうしていると不思議な気分になるね。翔太は男の子なのに、こうして女の子みたいに見えると…」 莉奈の言葉に、翔太の心が揺れ動いた。


自分は男でありながら、今はまるで女性として扱われている。


しかし、その状況に対して不快感を抱くどころか、どこか安らぎを感じている自分がいることに気づいた。


高校を卒業し、二人は大学生活に突入した。


翔太はこれまで通り、女性としての姿を保ちながら、莉奈との関係を続けていた。


表向きには相変わらず親友のふりをしながらも、二人の間にある絆はますます強くなっていった。


そして、大学生活も終盤に差し掛かった頃、莉奈が切り出した。 「翔太、そろそろ私たち…一緒に暮らしてもいいんじゃないかな?」


翔太は驚いたが、同時に心の中で納得している自分がいた。 「そうだね、莉奈と一緒にいるのが一番安心するし…一緒に暮らしたい。」


こうして、二人は共に暮らし始め、新たな生活が始まった。


大学を卒業して数年が経ち、二人の関係はさらなる段階に進んでいた。


ある日、莉奈が切り出した。「翔太、私たち…結婚しよう。」


「えっ?」 突然の言葉に、翔太は一瞬驚いたが、すぐに莉奈の目を見て頷いた。


「うん、莉奈となら…僕もそうしたい。」 二人の決意は固まった。


周囲には公言せず、事情を知る身内だけで小さな式を挙げることにした。


式の日、翔太と莉奈はお揃いの美しいウェディングドレス姿で、二人は静かに誓いを立てた。


「これからも、ずっと一緒に。」

「うん、ずっと。」


数年後、二人の間には新しい命が授かった。


息子が生まれ、二人はますます絆を深めていった。


子供を産んだのは莉奈だが、翔太は自分が男であることを忘れ、家族の一員として、そしてもう一人の母としての役割を果たす日々を送っていた。


「僕たち、家族になれたね。」

「うん、これが私たちの未来だよ、翔太。」


こうして、翔太と莉奈は家族として、夫婦として、新たな未来を歩んでいくのだった。

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