ダンジョン初心者の天才兄妹が、ただモンスターに目を輝かせて無双する話

あおぞら@書籍9月3日発売

第1話 ダンジョン初心者の兄妹

 ———地球に『ダンジョン』と呼ばれる異界のゲートが現れて早100年。


 当初は未曾有の危機を引き起こし、数百万もの命を奪ったダンジョンも、『覚醒者』と呼ばれる超常的な力を持った人々の奮闘もあり……今ではすっかり日常の一部として受け入れていた。

 

 さて、そんな世界の一角———覚醒者大国の1つでもある日本にて。


「我が妹、凛音りんねよ」

「何だい、おにぃ」

「遂にこの日が来たわけだが……感想をどうぞ」

「早くモンスター見たい」

「素晴らしい! 素晴らしいぞ我が妹よ!」

 

 俺こと赤羽あかばね灰音はいねは、唯一の肉親である妹の赤羽凛音と共に、田舎からはるばる東京———覚醒者協会日本支部へとやって来ていた。

 そんな俺達の腰には、太陽の光を反射して鈍く光る魔鉄———ダンジョンで取れる、魔力によって精錬された特殊な金属———製のバスターソードを下げ、急所を護るように同じく魔鉄製の身軽な防具を着用している。


 これだけの情報があれば、俺達がこれから行く所など1つに限られる。



 そう———ダンジョンだ。

 


 小さな頃からテレビで、ラノベで、ダンジョン専用配信アプリ『ダンスト』で。

 様々なメディアを通して俺達兄妹が毎日画面越しに見ては、目を輝かせていた非現実的な世界へと足を踏み入れるのだ。

 これで胸が踊らない者はいるだろうか、いやいない。


「凛音、身嗜みはバッチリか?」

「もちろんだよ、おにぃ。髪も可愛く結んだし、汗で流れないお化粧も、いい匂いの香水もしてきた!」


 俺の問い掛けに、凛音がポニーテールを揺らしながらふわっと花が咲くような笑顔を浮かべる姿は、さながらこの世に迷い込んだ天使のようだ。


 何て俺の例えの通り、凛音は他者とは一線を画す美貌を誇っていた。

 それなりに顔が整っている俺ですら『本当に同じ遺伝子をお持ちで?』と疑いたくなるくらいのレベル。

 

 俺と同じ———今は金髪だが———黒曜石のような目を奪われる漆黒の髪と瞳。

 目鼻立ちのどれをとっても完璧と言わざるを得ない、神が利き手&本気で描いたかのように端正な顔立ち。

 身長は154センチながら、バランスの取れた抜群なプロポーションは、実際より身長を高く見せる。

 

 俺より1歳年下……今年16歳の高校1年生とはとても思えないね。

 まぁ胸はどう足掻いても巨乳とは言い難いけど。(それを言ったら殺される)

 でもお兄ちゃんはそれも個性だと思ってるからね。


 対する俺は、凛音と比べれば見劣りするものの……それなりに整った容姿に、170ちょいと日本人男性の平均程度の身長。

 それなりに筋肉はあるが……細マッチョとまでは呼べない程度しかない。

 そんな俺の1番のチャームポイントは———田舎者と舐められないように染めている(安直)金髪の髪と眉毛。

 

 凄いよね。

 髪染めるだけでちょっとメンタル強くなるんだもの。


 何て、お気に入りの金髪について考えていた俺だったが、


「おにぃ、おにぃ!」

「ん、あ、あぁごめん、ぼーっとしてたわ。それでどうしたよ?」


 身体を揺さぶる凛音によって現実へと思考が呼び戻され、首を傾げる。

 そんな俺に、凛音が『おにぃは何してきたの?』と訊いてきたので、腕を組んで胸を張り、渾身のドヤ顔を披露した。


「———髪染めてセットしてきた」

「髪ばっかりだね、おにぃ」

「……時に正論は、罵詈雑言よりよっぽどダメージを与えるんだ。ちゃんと覚えておくように」


 圧倒的正論に押し潰された俺は一気にシュンと肩を落とすも、ダンジョンが目の前ということもあって、直様立ち直って歩き始める。

 

 余談だが、俺達が身嗜みを気にしているのは、モンスターに会うからである。

 幾ら倒さないといけないとは言え、相手は俺達からしたら超絶有名な芸能人と何ら変わりない。

 そんな相手にだらしない姿を見せるわけにはいかないのだ。


 あ、モンスターに身嗜みは判らない、何て下らない反論をする奴は掛かってこい。

 ぐちゃぐちゃに論破してポイしてやる。


「おにぃ、ダンジョンゲート! ダンジョンゲートが目の前にある!!」

「おぉぉぉ……これが夢にまで見たダンジョン……!!」


 興奮した様子の凛音に袖を引っ張られて前を向けば……自動ドア越しに、不自然に空間の歪んだ青白い光を放つ丸い穴———ダンジョンゲートが目に飛び込んでくる。

 その現実離れした姿に、俺も妹と同じくテンション爆上がり。

 食い入るように見つめ……早く入りたい、と焦れたように同じタイミングで自動ドアの前に立ち、ドアに設置された認証システムに覚醒者カードをかざすと。


《覚醒者カードを確認。入場を許可します》


 そんな機械音声と共に、自動ドアが開いた。

 室内から外に向かって風が吹く。

 

「……凛音、覚悟は良いな? カメラは持ったな?」

「ふっ……愚問だよ、おにぃ。もちろん準備したよ———一眼レフをね!」

「流石俺の自慢の妹! それじゃあ撮りまくるぞ!」

「イエッサー!」


 こうして、俺達のダンジョン攻略が始まった。



 この時の俺達は知らない。


 まさかこの後、目を輝かせる俺達の攻略の様子を動画で撮られ……ネットを中心に大バズリするなんて。

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