第2話 魔法、戦闘。あと変装
『フワフワ〜』
現在身体を霧にして空を漂っているのだが、中々に心地良い。
浮遊感に包まれ、身体を動かさずとも勝手に動いてくれるのは非常にありがたいし心地良い。
さて、魔王さんが治めてた魔国から飛び出してかなりの時間を霧状態で居たわけだが……此処は何処だろうか。
見渡す限りの荒れ地、生命の息吹すら感じない。
いや、撤回しよう。生命はある。気持ち悪い魔物筆頭のワーム君がワラワラと地面から出て来ている。
俺の霧化って身体を血の霧にする関係上、血の匂いに釣られてワーム君がたんまりと顔を出すんだよね。
とは言え霧状体の俺を捕まえる事は出来ない。本能がままに喰らおうとするワーム君はデッカい口を虚しくパクパクしてるだけになっている。
可愛らしい表現をしてみたが、正直に言うと少し拒否したい光景である。
想像してみてほしい、
(……殲滅するか)
霧の状態から人の姿となり、集まってるワーム達に向けて手をかざす。
別に手をかざす必要は無いのだが、せっかく初めての魔法を行使するのだ、ちょっとぐらいそれっぽいポーズをしてみても良いだろう。
「よし……凍れっ!」
発動させるは氷魔法。角が氷属性の魔力を制御し、尻尾が魔法発動の補助をしてるのを感じながら魔法を放つ。
ワーム達が冷気に包まれた——かと思えば一気に氷が生成され、氷の柱が生まれてワームを氷の中に閉じ込めてしまった。冷凍ワームの完成だ。
「うーむ、ちょっと規模デカ過ぎたか?」
デカいワームが複数体、それらを全て纏めて凍らせるように発動させたからか滅茶苦茶デカい氷の柱が出来上がった。
……処理、どうしようか。
「……埋めればいっか」
地魔法を使って地面を操作し、氷の柱が丸々埋まる程の穴を開けてそこに放り込む。
そして地魔法で蓋をすれば完成、証拠隠滅は埋めるに限る。
「にしても魔王のスペックって凄いな……魔力消費も全然だし」
やはり魔王と呼ばれているだけあって基礎スペックが化け物だ。
生きとし生けるもの全てが持つ魔力……その持てる量は個人によって変わり、この魔王の身体は最高峰とか言う言葉では片付けられない程の魔力を保持出来るのだ。
それに魔王が磨き上げた技術も奪えてしまったから滅茶苦茶効率的に魔法を使えている。
魔王さん(記憶)が言うには、「我は神すらも超越する存在ぞ!」らしい。確かに異世界とのパスを繋げれてるところを見るにあながち間違いでは無いのかもしれない……
ちなみに使った魔力は休む事で回復するらしい。最も効率的な休憩である睡眠ならば数時間で全回復するのだとか。魔力保有量がどれほど多くとも数時間で回復するっぽい。
この能力も魔力も身体も全て
まぁ、本当の所は別にそこまで気にしてないが。だって魔王さんの自業自得だし……異世界に来れて結構ワクワクしてるし。
「とりあえず……そうだな、血を使わずに移動するか」
血を使えばワームが地面から湧き出てしまう。血を使わないと言う吸血鬼としてのアドバンテージをほとんど失う状態で移動するのが最適かもしれない。
荒野を歩きながら進む。
遠目に見える開拓村を目指しながら……
----------------------
「そういや、このままの姿じゃダメだな……」
イケメンフェイスに長い犬歯と蝙蝠の翼、龍人の角と尻尾を持ち合わせた魔王さんは人間界でも滅茶苦茶有名だ。魔界でも言うまでもなく超有名。
人間界では極悪指名手配犯、魔界では高嶺の花なアイドル扱いである。もう温度差が凄い。
ただ、どちらでも共通して言えることがある……見つかれば凄い騒ぎになるのだ。
「とりあえず顔は仮面で良いか」
コレまた便利な魔王さんの能力である異空庫から良い感じの仮面を取り出す。
仮面と言っても顔を覆う感じのではなく、目元から下を覆う感じの奴が良い。こう、視界が塞がれるのって案外窮屈だし。
と言う事で取り出した仮面はコレ、全体的に黒くて鼻・口・頬を覆うだけの面積がある仮面——マスク? だ。
狼の牙を模した様な少しゴツゴツとした感じ。ガッツリと牙感があるわけではなく、ギザギザが入っただけの割とシンプルめな見た目である。
「良いなこのデザイン、厨二心がくすぐられるねぇ」
迷いなく仮面を付け、顔の下半分を覆ってみる。仮面が吸い付く感覚を感じながらも、魔法で反射鏡を生み出して姿を確認してみる。
「あー、あー、あー……よし、良い感じだな」
適当に喋ってみても仮面があるから長い犬歯が見える事もないし、イケメンな顔も少しは紛らわせている。コレで吸血鬼の牙とイケメンすぎる顔の問題が解決した。
「にしてもマジで外れないな……コレが呪いか、凄いな」
こちらの仮面、実は呪いの品である。装備解除不可の代わりに様々な耐性が付くと言う性能なのだが、そもそも基礎が優秀過ぎる魔王さんボディには耐性が上がっても焼け石に水程度だ。
そして効果が発揮する装備解除不可、しっかりと肌に吸い付いて離れなくなっている。もしかして仮面と同化したか? とは思ったがただただ呪いでくっ付いてるだけっぽい。
……魔力を使わない素の状態での力じゃ剥がせないっぽい。
「いつでも外せれるし……むしろ事故で剥がれないと思えば良い効果だな」
とはいえこの身体は魔王さん印のツヨツヨボディだ。勿論呪い耐性も持っており、抵抗すればこの仮面は普通に外れる。今外れないのはこの呪いに抵抗してないだけである。
「次は〜、髪と瞳の色だな」
この世界で白と黒という色はかなり重要な色らしい。白は堕天した天使や悪魔と言われており、黒は救世主の色とされている。
白き巫女が闇堕ちしたり、魔王さん自体が白き悪魔と呼ばれてたりして白色が不吉な色になった事に加え、勇者になる者は大抵黒髪黒眼だから黒は縁起が良いとされている。
なお魔国ではこの常識は正反対である。白が吉兆であり、黒が凶兆。これが文化の違いって奴かぁ。
でもどちらの界隈でも同じ事がある……白が美しく綺麗に見えるって事だ。サキュバスとかも白く美しい肌で誘惑するからな。
黒とかも良いと思うけどねぇ、服とか利便性が抜群だし。
「髪は……そうだな、水色にでもするか。瞳は今の逆で青で良いだろ」
白色じゃなければとりあえず非難はされないだろうし、適当に色を決めて変装が出来る魔法で髪色と瞳の色を変えておく。魔法の発動妨害があれば途切れるかもしれないから後々対策を考えないとな……
「残るは角と尻尾と翼かぁ……」
勿論の如く存在する亜人種、その中でも龍人とも呼ばれる存在として通すには蝙蝠の翼が邪魔なのだ。龍人が持つ翼はしっかりと龍の物だからな。
「翼はフード付きのマントでも被って隠すとして、角と尻尾よな」
フード付きマントは元々顔を隠す予定だったから異空庫から出している。
とは言えフードを被るには角が邪魔だし、尻尾も目立つ。
「んー、あっ、良い装備あるじゃん」
異空庫を漁ってると良い物を見つけた。氷の様に見えるイヤリング……小物のアクセサリーとしても綺麗だし、効果も素晴らしい。
効果は能力の凍結、多分だが封印に近い能力だと思う。
とりあえず付けてみる。すると瞬く間に魔力が凍っていき、生物の域を超えるほどの魔力が人の範疇(最高峰)を超えないほどになった。
そして膨大な魔力を制御する必要が無くなった為に、角や尻尾が霧散していった。あの角と尻尾は魔力で作られた外付けの器官らしい。
「最初からこのイヤリングを付ければ良かったな……」
能力の凍結はあくまで呪いの効果だ。本来は強力な偽装能力がメインである。
魔法で変装してた所をイヤリングで補い、蝙蝠の翼も見えない様にしておく。
「コレでよしっと。それじゃあ出発しますかっ!」
フード付きのマントを被り、歩き始める。
魔王になって驚きはしたが、どうにか異世界を自由に楽しめそうでなによりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます