第四章: 隣町の危機 前編

カサンドラの冒険者ギルドでゴブリン討伐の報告を終えたジュンヤ、アユ、フィオナ、そしてルシウスが休憩を取っていると、一人のギルドの使者が慌てて駆け込んできた。使者は息を切らし、焦りに満ちた顔で状況を伝えた。


「緊急です!隣町ヴェルムが魔物の襲撃を受けています!村人たちが危険です!」


その言葉に、ジュンヤたちは一瞬固まった。フィオナがすぐに反応し、「急いで助けに行かないと!」と声を上げた。ルシウスは冷静に状況を把握し、使者に詳しい情報を尋ねた。


「どれほどの規模か、詳しい情報を教えてくれ」とルシウスが問いかけると、使者は震える声で答えた。


「ゴブリンだけでなく、オーガまで出現しているとのことです。村人たちは逃げ遅れており、甚大な被害が出始めています!」


ルシウスは険しい表情で少し考え込んだ後、決断を下した。「私はすぐに王国に戻り、部下たちを連れてくる。ジュンヤ、君たちはここで待機して――」


ルシウスの言葉を遮り、ジュンヤは強い決意で答えた。「待てません!僕たちは今すぐヴェルムに向かいます。村人たちが危険な目にあっているのに、じっとしていられない!」


ルシウスはジュンヤの熱意に少し驚いたが、彼の決意の強さを感じ取り、静かに頷いた。「わかった。しかし、無理はするな。アユとフィオナと協力し、増援が来るまで耐えろ。私はすぐに追いつく」


ジュンヤは力強く頷き、すぐに行動を開始した。「任せてください、村人たちを守ります!」


フィオナも「急ぎましょう、ジュンヤ。村が壊滅する前に!」と同意し、アユも不安ながらも決意を固めて「私も治療を頑張る」と頷いた。


ルシウスはすぐにギルドを離れ、増援を連れてヴェルムへ向かう手配を始め、ジュンヤたちは先に隣町ヴェルムへ全速力で向かった。


ヴェルムに到着したとき、町は既に破壊の中にあった。建物が燃え上がり、魔物たちが暴れ、逃げ遅れた村人たちは次々と命を落としていた。ジュンヤたちは目の前に広がる惨状に驚愕しつつも、すぐに行動を開始した。


「アユ、村人たちの治療を頼む!フィオナ、俺たちは魔物を倒しに行く!」


ジュンヤの指示に、アユはすぐに傷ついた村人たちのもとへ駆け寄り、杖を掲げて回復の呪文を唱え始めた。彼女の温かい魔法が村人たちを包み、傷が癒えていく。


「大丈夫です、私が治します。安心してください…」とアユは村人に優しく語りかけながら、次々と治療を行っていった。


一方、ジュンヤとフィオナは次々に現れる魔物たちに立ち向かっていた。ゴブリンや小型の魔物を容易に倒すが、すぐに異様なオーラを放つ巨大なオーガが彼らに立ちはだかった。


「くそ…あいつは手強そうだ!」とジュンヤが叫び、剣を構えたままオーガに突進した。


フィオナも魔法を駆使し、魔物たちの動きを封じ込めようとする。「ジュンヤ、あれは希少種のオーガよ!気をつけて、これは普通の戦いじゃないわ!」


ジュンヤはオーガの一撃をかろうじてかわしたが、通常のオーガとは違い圧倒的な力に押され、苦戦を強いられていた。


ヴェルムの近くをふらふらと歩いていたマユは、飽き飽きした表情で景色を眺めていた。異世界を渡り歩くことは彼にとって日常であり、特に目的もなく、ただ新しい世界を観察するだけの旅だった。


「どこも変わらないな…」と、彼は退屈そうに呟いた。


しかし、少し歩き進むと、遠くから立ち上る煙が視界に入った。炎と破壊の音が風に乗って彼の耳に届く。どうやら、この世界でもまた、何かが壊れ、誰かが苦しんでいるらしい。


「ふーん、また面倒なことか…」と一度は興味なさそうに首を振ったが、そのまま足を止めることなく、ゆっくりとその方向に歩を進めた。


彼が村に足を踏み入れると、目の前には予想以上に混乱と破壊が広がっていた。村人たちは恐怖におびえ、魔物たちが町を蹂躙していた。炎が燃え盛り、悲鳴が空にこだまする。


マユは一度立ち止まり、その光景をしばらく無表情で見つめていた。


「また、いつもと同じようなくだらない光景か…」と、再びつまらなそうに呟いた。


しかし、ふと目の端に映った巨大なドラゴンが人々を焼き尽くす光景が、マユの中にわずかな好奇心を呼び起こした。


「ドラゴンか…そういえば、しばらく見てなかったな」と彼は微かに興味を示した。


彼はゆっくりと村の中心に歩みを進め、巨大なドラゴンが炎を吐き、人々を襲う様子を見上げた。ドラゴンの咆哮と炎の熱気が彼の髪を揺らすが、彼の表情は無感動なままだった。


「どうせすぐに壊れるだろうが…」と呟きながらも、どこかでその光景に退屈を感じつつも、暇つぶしには丁度いいと考えた。


そして、彼の目は一人の少女に向いた。恐怖で震えながら隠れている少女が目に入り、彼は少しだけその場の状況に関心を抱いた。


「ふーん、あの子、この異世界のヒロインか…?」


彼はため息をつくようにゆっくりと手を前に差し出すと、その手の動きに呼応するように、ドラゴンの巨大な身体が粉々に砕け散った。まるで存在そのものが無かったかのように、風に消えた。


「まあ、こんなものか」と、マユは飽き飽きした表情のまま呟き、再び歩き始めた。


彼が進むたびに、周囲の魔物たちが次々と消えていく。魔物は抵抗する間もなく、一瞬でその存在が消滅していった。村人たちはその光景を目の当たりにし、さらに恐怖に震え上がった。


マユはその反応には何の興味も示さず、無感情なまま進み続けた。


「暇つぶしにはなったかな」と、無関心な声で言いながらも、その瞬間だけは少しだけ楽しんでいるようにも見えた。

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