第8話 おいかけっこ
「おぉ!できたな!!」スサノオが煽てる中、向かいに貼られた鏡で全身を一部一部確認する。薄いオレンジ色の甲冑が全身を纏い、髪の毛の色も茶髪と金髪の中間付近の色に変わっていた。
「かっけぇえ!!」目を光らせながらその場で色々なアクションを取る。
「こういう超ミート人みたいなの憧れてたんだよなぁ!いや、テンション上がるわぁこれ」
「よかった、よかった!ひとまず第一関門突破ってとこだな。よし、じゃあ続けるぞ」
咳払いをして再度意気込む。運動が人一倍苦手な
「この本が言うに、その四神化の維持は『
「なるほどなるほど。そして、多ければ多いほどいいってことですね」
そうそう、とスサノオは首をロックバンドで巻き起こるヘドバンのように高速で首を上下に揺すり納得の意を示す。その動きから優気の四神化に興奮していることが分かるが、何度も戦場を経験しているため、実戦と日常との感覚の帳尻合わせが難しいように感じられる。
「今日は『神力』の扱いをマスターすることが目的だったが、初めて四神化したからな。どうしようかなぁ」
想定外の展開で少し頭を悩ませたが、何か閃いた様子でこちらを見た。
「そうだ。今から実戦形式のおいかっけっこしよう!」
先ほど手にしていたテキストから付録のフリスビーを取り出し、握りやすいように入念にほぐす。おいかっけっこに何の意味があるのかはわからなかったが、とりあえず続きの説明を受ける。
「俺はフリスビー持って全力で逃げるから、それをゆうきは奪い取ってくれ。もちろん殴る蹴るなどの力による抵抗もするし、お前もしていい。なんてったって実戦をイメージしたもんだからな」
「わかりました!最初はちょっと離れた方がいいですかね?」
「そうだな。俺はちょっと奥に行くからお前は部屋入り口に移動してくれ。あの時計で4時半になったら開始な」
二人は定位置に立ち、向かい合う。昨日見たレベルの高い戦闘能力からフリスビーを奪い取れるのかいささか疑問ではあるが、取り敢えず全力で追いかけるだけだ。
「ちなみにこれはテストみたいなもんだからな。全力でこーい!!」
「全力で行きます!!」
部屋の壁掛け時計の秒針が十二時を指し、時刻が四時半となる。優気はスサノオに向かって真正面へ走りだした。
すると、スサノオはいきなりフリスビーを持っていない手で拳を作り、顔面を目標に殴りかかってくる。優気は不意打ちに驚きながらも直前で上体を反らし、右手でフリスビーを取りに狙う。
しかし、手首を後ろにスナップさせ、スサノオの背中に巻き付くように回転していくと、先程拳を振った反対側の手でキャッチする。スサノオは優気の体制が整うと同時にみぞおちに向かって蹴りを入れ、優気は再び入り口に戻るように付近の壁に衝突した。今まで味わったことのない苦しさを感じておもわず嘔吐してしまいそうになる。
「おい、この部屋で吐くんじゃないぞ。掃除すんの俺なんだから」
蹴られた方が悪い。そんなスタンスだったが、向こうの感覚では今の蹴りが当たることの方が非現実的で、下の下の動きと思っているだろう。
「いや全然大丈bおろろろろろろろろろろr」
瘦せ我慢の限界が尽き、意図せずに吐いてしまった。優気の苦しむ顔を目の当たりにしてスサノオはおもわず困惑する。
「おいおいマジかよ!これじゃ神耐久ならぬ紙耐久だな」
上手いことを言って調子に乗っているところが少し優気の気に障る。口元を拭い、奮起に燃える声を出しながら再びスサノオの元に向かって行く。
「そっちもその気ならこっちもぶん殴んぜ!」
そう意気込みながらこちらも右手で拳を握り、顔をめがけて殴りかかるが案の定躱され、またカウンターの膝蹴りが腹部を狙ってかまされる。
だが、優気も負けていられない。先のことを学習して、左手で拳を受け止めたのだ。予測したカウンター対処の芸当に、これにはスサノオは関心を示していた。当の優気は受け止めた左手に衝撃が走り必死に痛みに堪えるが、これで終わってはならない。
すぐさま股を抜くように、対角線上の軸足、膝裏を狙って右足で蹴りを入れる。これも不意を突かれる格好となり、体制を崩すことを狙った攻撃は無事に命中した。
初めて攻撃が当たり、心の中で大きなガッツポーズをしたが、安堵するのも束の間。スサノオは後ろに向かって体制が崩れることを察知し、軸足を蹴られる前に爪先に力を入れることで、走り幅跳びでバーを飛び越えた後の体制のように高々と宙で体を捻り、その遠心力を纏った勢いで優気の顔面に蹴りを入れた。
これには手応えのあった優気は分からなかった。それもその筈、優気の攻撃はスサノオにとって不意だったからだ。しかし、その攻撃動作を食らった後に対応したとなればどうだろうか。つまり、神がかり的なフィジカルの強さが優気の策を上回ったのである。
蹴りを食らった優気はまたもや同じように入り口近くの壁に激突し、鼻血が溢れ出て自然と涙が目に浮かんでしまう。
「意味わかんないフットワークと蹴り…超次元サッカーかよ…」
有り得ない戦闘技術に理解ができずに落ち込んだ様子だったが、目元を拭い、「まだまだ!」と自らを鼓舞し切り替える。
「その意気だ!」
スサノオも優気を鼓舞する様子はそれほどの期待があったからだろう。
その後何度もフリスビーを取ろうと試みるが、ペットのように扱われたり返り討ちに合ったりなどばかりで、約十分ほど経過したところで四神化が解けてしまった。
また、普段運動をしない優気にとって過度な動きの継続により汗は止まらず、体力も底尽きていたため、急な眩暈がやってきて視界をぐちゃぐちゃに乱した。
そんな状態に陥り、倒れそうになったが、前に強くて温かいものに支えられた感覚が現実に引き戻す。
「大体10分くらいもったな。お疲れ様。よく頑張ったぞ」
ありがとうございます、と細々と伝えるがまだ意識は朦朧としており、先ほどいたリビングまでスサノオが肩を組んで連れていく。
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