自殺して前世を思い出したので今度は好き勝手生きようと思う
真白燈
第1話 決意
夫であるデニスのことを愛していた。だが彼は私の妹と不倫していた。言い逃れできない決定的な場面を見て彼らを問いつめたところ、妹は泣きじゃくり、彼はそんな妹を庇った。
「わ、わたしが悪いんです。お姉様の婚約者であったのに好きになってしまって、どうしても諦めきれなくて」
「イルゼ。レイラは何も悪くないんだ。すべて僕のせいで……」
どちらも互いに悪くないと言い張り、それがますます私を絶望させた。とにかくこうなっては離縁したいと申し出たが、彼はそれは困ると言い、両親も一度くらいの浮気ぐらい許してやれと、私の気持ちを考えもせず言い放った。
しかし妹が彼の子どもを妊娠しているかもしれないと泣いて告白したことで風向きが変わり、妹のためを思い、やはり離婚しようということになった。
デニスが何か私に言っていたが、まったく頭に入って来ず、結局は別れるという趣旨であったと思われる。
妹はずっと好きだったデニスと結婚できて、離婚された私は社交界の笑い者となった。家に引きこもる私を心配するのではなく、厄介払いしたくて両親は再婚を勧める。うんと年の離れた、男性との結婚を。
今まで両親や彼に少しでも自分を見てほしいと努力してきたつもりだったが、彼らにとって妹の方が大事だったらしい。
この先どうやって生きていけばいいのか。たぶん生きていても恥を晒し続けるだけだと、私は睡眠薬を大量に服用して眠りについた。
死に向かう途中で――すでに肉体から魂が離れた状態で、私は見知らぬ世界を夢見ていた。それは私の前世であった。
私の住んでいる世界とは全く違う。建物や道路、そこに暮らす人間の話す言葉や着ているもの、肌の色、とにかく違いをあげればきりがないが、その中で衝撃を受けたのは彼らの生き方だった。身分制に縛られず、男に対してだろうと、間違っていることは間違っているとはっきり否定することができる。
こんな生き方があるのだ。許されるのだと、私は頭の中がひっくり返る気分であった。以前の「私」であった人間が送った人生はその世界ではひどく平凡なものであったが、私にとってはとても波乱万丈に満ちており、素晴らしいものに映った。
こんなふうに私も生きればよかった。あの時絶望して死んでいった自分が悔やまれた。もう一度やり直したい。
――そう強く願ったからだろうか。
目覚めた時、私は子どもの頃に戻っていた。熱を出して、寝込んでいたという。しかし両親はたいした心配もせず、日頃の体調管理には気をつけなさいと逆に注意を受ける羽目になった。
そうだ。この頃からすでに両親の関心は私ではなく妹にあった。妹は私よりも華奢で身体が弱かった。だからとても可哀想に思われて、可愛がられていた。それは彼女の身体が丈夫になってからでも。
以前は妹ばかり構われるのが寂しくて、どうにか自分を見てもらいたいと私は良い子であろうとした。お行儀よく過ごして、我儘一つ言わず、家庭教師の出した課題を泣きながらこなした。
でも、もうやめた。意味がないからだ。これからはもっと自由に、好き勝手に生きよう。あの夢で見た、知らない世界の人間たちのように。
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