忘却の騎士

@huredy

第1話 忘れられし者

とある男の墓があった。

墓、というよりは死骸のある穴倉の前に石板が置いてあると表現した方が分かりやすいかもしれない。

その石板には名前や出自などが書かれていた跡こそあれど、風雨あるいは悪意で削られていて読めはしない。

死骸は白骨化しているが大柄で屈強な男だったのだろうと連想できる。

骨は太く骨格に至っては一般的な死骸に比べると二回りは大きいだろうか。

そんな大柄な死骸は前のめりに倒れて絶命したのか、うつ伏せで眠っている。

凶器は背後からの剣による一突きだったのだろう、未だにその男を起きさせまいと地面に貫通して突き刺さったままである。


屈強な男は穴倉を覗いた時にでも背後から不意の一撃をもらってしまった、それが致命傷となり志半ばで倒れた。

志半ばと表現する要因、それは男が何かをしようとしていた形跡が見て取れるからだ。

手にはその男の身の丈ほどある大剣が握られているからだ。

その男であれば多少屈まなければ入れないような穴倉でそんな大きな獲物は邪魔でしかない…それでも男は手放さなかった相棒なのだろう。

その大剣は重厚で無骨な造りではあるが、よく手入れをされていたのだろう。

年月と雨風による多少の風化は見られるが、傷は少なくまだ鋭い刃がある。


時と人、国にも忘れられた男は200と余年の間眠り続けている。

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