祭れ!
Nagi
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開催を来月に控えたハロウィン仮装イベント・掛川百鬼夜行の準備中に私は「その知らせ」を受け取った。職場の先輩であり、実行委員会のメンバーでもある葵さんと、イベントのちらしや謎解きゲーム用の冊子をビニール袋にセットしていた時だ。
三十五歳で一人娘のいる葵さんは、娘と「スパイ・ファミリー」のコスプレをするのだと張り切っていた。「祐子さんはどんな格好するの」と尋ねられ、私は、「実行委員会のTシャツと狐のお面ですかねえ」とつまらない返事をした。
「私が年甲斐もなくヨルになるんだから、祐子さんがやらなくてどうするのよ」
私は、えへへ、と愛想笑いで言外の誘いをかわした。娘とコスプレしてお祭りに参加したいと思える葵さんのことが、素直にうらやましい。そのモチベーションは自意識過剰な私からは絶対に生まれない。どんな格好をしても後悔するに決まっている。過激なファンに目をつけられたらと思うと美少女キャラクターはとても選べないし、かと言って笑いに走ってもいたたまれない空気になるだけだろう。そもそも、人手が足りないからと葵さんにお願いされなければ、この企画に参加することもなかった。いわんやコスプレして人前に立つなんて。
「そのちらしの女の子なんてどう?」
掛川百鬼夜行のタイムテーブルやゲストのお知らせが書かれているちらしには、プロのイラストレーターに発注したと思われるイメージキャラクターが印刷されていた。エメラルドグリーンの髪をした美しい少女が、口元に笑みをたたえながら鋭い目つきでこちらを見ている。確かに振袖をモチーフにしたような衣装はかっこいいが、よほどのクオリティでなければ再現は難しいだろう。
「私は受付と撮影係に徹しますよ」
「祐子さんは背も高いし、何やっても似合うと思うんだけどなあ」
私は再び愛想笑いを浮かべ、話を切り上げようとスマホを開いた。
LINEのメッセージが届いていた。春菜からだった。
《久しぶり。いきなりでごめんだけど、美知香って覚えてる?》
美知香。その三文字は私の胸をざわつかせた。もちろん覚えている。高校二年の時、私たち三人はクラスメイトだった。
《久しぶりー。もちろん覚えてるよ。どうしたの?》
嫌な予感がした。高校の同級生から唐突に送られる誰かの近況なんて、吉凶どちらであっても、ろくなもんじゃない。私は衝動的にスマホを閉じたくなったが、春菜からのメッセージ受信の方が早かった。
《亡くなったらしいよ》
やっぱりね。ろくなもんじゃなかった。
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