語尾なのですの彼女が今日も可愛い件について
有原優
第1話 告白
「あなたのこと……好きなのです!!!」
俺は今日屋上でそう告白された。
屋上に手紙で呼び出されたが、まさか告白だとは。
相手の子はいつも語尾になのですをつける系の子だ。
だからこそ俺はまず、どうしようかと思った。
俺は別にこの子が苦手なわけではない。ただ、どう見ていいのかわからない。
俺は漫画とかでしか、なのですキャラと言うのを見たことがないのだ。そう、彼女以外は。
「お願いするのです。私と付き合ってほしいのです」
そう、頭を再び下げられる。俺は……。
とはいえ、彼女は普通にかわいい。独特な語尾以外は一緒にいたら楽しそうに感じる。
それに彼女は語尾がなのですであるという事以外は至って普通の少女だ。
クラスからの人気も高い。
「分かった。付き合おう」
「やったのです!! ありがとうなのです」
そう言って彼女はガッツポーズをした。
「早速一緒にご飯食べていいですか?」
「ああ」
今は昼ごはんの時間だ。
「じゃあ、ここで食べたいのです」
そして俺たちは屋上でご飯を食べることにした。
「そういや俺のことなんで好きになったんだ?」
今まで夢葉と会うこと自体があまりなかった。
「それは……シンプルにかっこよかったからです。それに、優しいところを結構見てますし、野球好きだって聞いてたし、話が合うと思ったからなのです」
「そうか……そう言えば結構野球の話をしてたな」
俺は野球がそこそこ好きだ。
「とはいえ、クラスに野球好きな人があまりいなかったのですが」
「そうか」
「あの……好きな選手は誰なのですか?」
「好きな選手か。橋下選手かな。一見見たら地味で、そこまで成績は残していないイメージだけど、常にケガしないでローテ五番目か六番目を守ってるから」
「あ、俊哉君はそう言う選手が好きなのですか……私はやっぱり宇田川選手が好きなのです。彼は」
「ああ、あの選手な。ベテランだけど、まだホームランをガンガン打ってるしな」
宇田川選手は、今もホームランを打ち、日本人選手で二番目にホームランを打っている。今年も三十九歳ながら二十一年連続の二桁ホームランをほぼ確実なものとしている。
「流石、分かってるのです!! 私はやっぱりベテランが好きなのです。必死で老いに対抗しようとしている姿がとても好きなのです」
やっぱり、目が輝いているな。彼女は本当に野球が好きらしい。
「あ、そうだ、あーんしてもいいですか?」
「あーん」
「だめなのです?」
「いや、いいけど。あーんとかしたことないから」
だめなのです? の言い方可愛すぎるだろ。
これは破壊力がえぐい。
「なら試してみます?」
「ああ」
「じゃあ、あーんなのです!!!」
そして俺は夢葉のスプーンを見事に口にくわえて、それをむしゃむしゃと食べる。
「おいしいですか?」
「ああ」
「良かったのです。ところでですけど、俊哉君からもあーんしてもらってもいいですか?」
「あーんか。わかった」
そして俺が差し出すはしを夢葉はぱくっと加える。まるで魚みたいに。
「おいしいのです!!!」
ご満悦みたいだ。
その後も人生初の彼女との食事を楽しんだ。
そして、予鈴が鳴った。そろそろ授業が始まりそうだ。
俺たちは積もる話はその辺にして、教室に戻ることにした。
「あの、手をつないでもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
「じゃあ!! なのです」
そして彼女は俺の手をがっしりとつかんできた。
「なんかカップルみたいな感じがしていいのです」
「ああ、俺もだ。こういうの初めてだしな」
そして俺たちは教室に入る。
「あ、夢葉。手をつないでるってことは告白成功したってこと?」
夢葉の友達が来た。鮎川恵だ。金髪のツインテールが特徴的な女子だ。
「もちろんそうなのです!!」
「す、良かったわね。あ、俊哉君。この子ずっと、あなたのことが好きだったのよ」
「え、そうだったのか?」
「もう、ばらさないでほしいのです!! まあ、でもそうなのですよ」
「なるほど」
「だから、受けてくれて本当にうれしいのです」
そう言って夢葉は、はにかんだ笑顔を見せた。
「じゃあ、授業始めるぞー」
先生が入ってきた。もう授業の時間か。
「じゃあ、あとで……なのです!!」
そして授業が始まった。とはいえ、緊張して授業をまともに聴ける精神ではない。俺は夢葉の姿を見ただけで、心なしか照れてしまう。
今俺の精神状態はまともではない。
前までは意識してなかったのに、告白を受けたというだけで、ここまでになるのか。
「よし、この問題を、谷口解いてみろ」
「え?」
不味い、何も考えていなかった。俺の馬鹿。
どうしよう。
「分かりません」
「まったく、基本問題だぞそれじゃあ、水口」
そう言って、先生は夢葉に当てた。
あーくそ。馬鹿をやった。
いつもだったら簡単に分かる問題なのに。
そう言えば。
確か、夢葉は成績優柔で、学年一位を争うレベルの秀才だったっけ。
実際に今もすらすらと答えていたし。
「もしかして私のせいだったりするのですか?」
授業後に夢葉にそう言われた。
「明らかに集中できていないように感じたのです」
「それは……まあ確かにな。ちょっと変な気持ちになって。でもお前は悪くない。単に俺が集中できていなかったのが悪いんだ」
ここで夢葉のせいにするわけがない。それはまさに責任転嫁という物だ。
あくまで俺が悪いのだ。
「ふふ、やっぱり。俊哉君は優しいのです」
「それはどうも。それにしても軽々と答えてたな」
「まあ、勉強が私の自慢ポイントなのです」
「それはすごいな」
「あまり褒めないでほしいのです」
そう言って照れながら顔をそっぽに向ける夢葉。
褒められ慣れてないのかな。
いや、この反応は相手が俺だからなのだろう。
「あ、そろそろ次の授業が始まりそうなのです」
「ああ、確かにな」
「じゃあ、早速俊哉君は私の家に来てくださいなのです」
「え?」
いきなり家って普通なのか。
「だって、恋人ですから」
その目は俺に懇願しているみたいだった。
その目に、俺は逆らう術を持たない。
「ああ」
俺は頷いた。
そして俺は学校終わりに夢葉に連れられ、彼女の家に向かった。
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