代用品
両チーム、まずは炊飯器で白米を炊くところから始まった。
しかし、このホストチーム――米を量る段階で、早速行き詰った。
「お前たち、心して聞け。……我がチームには計量カップといったものが存在しなく、よって惜しくもここで敗退することになった」
「……彰人くん」
「さすがは我が会長です。計量カップを持ってくるのを忘れた挙句、潔く初手敗退宣言とは……恐れ入りますね」
「申し訳なく思う。……できるなら、この場で計量カップになりたいくらいだ」
「計量カップにはならなくてもいいけど、調理室にあるキッチンスケールを借りていいかどうか、竹原先生に訊いてきてね」
「了解した」
彰人は美麗のいる審査員席まで行こうとしたが、目をキラキラ輝かせている藍と目が合いでもしたのか、すぐに引き返してきた。
質問するのも面倒に感じたが、それでも凪は彰人に訊いてみた。
「彰人くんったら、どうしたの?」
「死神が……おれを待ち構えている」
「それは非常に残念だよ、彰人くん」
こうしてホストチームはあえなく敗退――かと思いきや。
「ふっふっふっ……なんてことはないっスよ、先輩方。こういうときは紙コップを使うっス!」
叶夢は桜が持ってきた紙コップを手に取ると、それを凪たちに見せびらかした。
桜は首をかしげたかと思えば、苦笑する。
「あぁ、叶夢っち……さてはとうとうおバカになったんですか?」
叶夢は桜にありったけの殺意を込めて、きつくにらんだ。
「てめえ……桜、アタイをバカにするのも大概にするっスよ。
――とまあ、このバカ桜はさておき、標準の紙コップには大体二〇〇ミリリットルの量が入るんス。ってことはっスよ? お米を入れる量を少し減らせば!
……大体一合分のお米が量れる、そういうカラクリなんスよね」
「ブラボー! 叶夢ラブ、叶夢ラブ……叶夢たん、ラァブ!」
「うっ、気色悪いっス……こいつが一年の女子トイレに忍び込んだっていう例の変態っスか。
こんな奴を野放しにさせるなんて、東城高校も終わってるっスね」
叶夢は腕をさすり、変態発言をした彰人にジトッとした目を向ける。
腕を組んだ桜はうんうんとうなずき、「さすがは叶夢っち」と清々しいまでの手のひら返し。
当然、叶夢は桜にまでジト目を向けるはめになった。
唯一、ジト目をされることがなかった凪は「何はともあれ、『赤髪のクック』のお手柄だね」と叶夢を褒めた。
見るからに叶夢は照れたように頭をかき、「いやぁ、それほどでも~」と言ってから、笑顔で桜の胸ぐらをつかむ。
桜は顔を強張らせ、降参したように両手を万歳した。
「ちょ、さすがは『赤髪のクック』……やることが時折えげつないんですってば!」
「いやぁ、それほどでも~」
そう照れたように言ってから、叶夢は彰人の胸ぐらもつかんだ。
当の彰人はというと、「……むっ?」と不思議そうに首をかしげていた。
さて、と凪はほほ笑むと、ほかの三人に向けて進行状況を知らせてやった。
「分かっているとは思うけど……ぼくら、まだ米さえ量っていないんだよね」
彰人、桜、叶夢――それぞれ真顔になる。
叶夢が桜と彰人の胸ぐらから手を離すと、彰人はブスッとした声で言った。
「……何をボヤボヤしている、お前たち。さっさと米でも量らんか」
「うん、そうだね。――というわけで、早く米を量ってくれないかな、会長」
「会長、待ちに待った出番ですよ~」
「変態会長さん、さっさと米を量るっス」
凪たちが彰人を口々に急かすと、彼は目を閉じて沈黙した。
それから彰人は目をクワッと開き、力強くうなずいた。
「うむ……!」
彰人が紙コップで米を量っているあいだ、凪たち三人は持参の水筒に口をつけ、ひと休みした。
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